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短編置き場
最後までありがとう 5

 どうして、

 好きに
 なれなかったんだろう。
 好きになれないんだろう。

 電話の向こうで、泣き出しながらも虚勢をはる彼女が痛々しくて、俺は早々に電話を切りあげようとした。これから訪問することを約束し、電話を切ろうと互いに挨拶し、さぁ切ろうとした瞬間ーー堪えきれなかった彼女の嗚咽が、ふと耳に届いた。すぐに電話は切れ、それは幻のように消えてしまったけれど、彼女は確かに今、泣いているだろう。
 きつく抱きしめて頭を撫でて、慰めてやりたかった。
 俺が泣かせたんじゃなければ、そうしてやれたのに。
 大丈夫俺がいるよ、と、強がって強がって、最後の最後にならなきゃ本音なんて弱音なんて言えない、俺にしか言えない、でも言い出したらめちゃめちゃに壊れてしまいそうなくらいに泣いて泣いて泣いてーー、そんな彼女に、大丈夫と囁きながら、泣き疲れるまで側にいて、やりたかった。それはいつも、俺の役目だった、はずなのに。
 こんなに愛しくて、大切なのに、どうして泣かせてしまったのだろう。どうして、好きになれなかったんだろう。どうして、どうして、どうして。
 罪悪感と後悔と悔恨、悔しさ悲しさ切なさ、そういうものがないまぜになって、俺はまた、泣き出しそうだった。
 今度は、好きだったあの人のためじゃなく、
 彼女のためだけに。
 最後まで俺の我が儘な願いを、口にしなかった願いを、上手にすくいとって拾い上げて、叶えてくれた、彼女だけのために。



20090128

読んでくださってありがとうございます。
鎮まってお願いだから、と対になる話です。
無駄に長くなってしまって反省です…。やっと終わりました。

お題:確かに恋だった



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あきゅろす。
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