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短編置き場
最後までありがとう 4

 聞き返すこともできずに、俺は黙り込んだ。あまりに軽く、静かに響いた彼女のその言葉に、俺は何の感情も読み取れなかった。
 嘲笑も絶望も怒りも悲しみも、なにひとつ読み取れない告白に、俺は何も応えることが出来なかった。
 すると、彼女は続けた。

(自惚れないでよ)

 それは、ぞっとするほど冷たい声で言い放たれた。背中にざっと鳥肌がたった気がした。けれど、口は、でも、と言っていた。
 けれど続く言葉はない。それを見て取ったのか、彼女は次の言葉を紡いだ。さっきの冷たい口調とは違う、紡ぐって言葉がしっくりするような、静かで、優しい、話し方だった。

(それに、見損なわないでよ)

 え、と聞き返すことしかできないまま、次の言葉を待った。彼女はまた、静かに、優しく、語る。

(友達の私を、見損なわないで)

 それはーー、彼女の精一杯の優しさだった。そして、自分自身の恋への死刑宣告でもあった。数少ない言葉で、けれど確かな言葉で、彼女は自分の友達であることを選択したのだと告げた。
 loveにはなれないneed、けれどloveよりも大切な、need。彼女はそれを、受け入れようとしていた。彼女は、loveもneedも、欲しかったはずなのに。その希望を打ち砕いた、俺のために。可哀想な、俺のために。

「……うん、サンキュー」

 なるべく軽やかに、嬉しそうに聞こえるように、俺は答える。彼女のために。静かに優しく告げてくれた彼女の言葉のために。
 くだらない話を続けようとする彼女の声が幽かに震え始めたことにも気づかないふりをして、そして、不自然でないように謝るタイミングを探した。

(あんたホント人の話聞いてないわね)

 きっと俺にしかわからない、幽かに、幽かに震えた声で、けれどきっと懸命に普通に振る舞おうとする彼女のその言葉に、俺は本気で、最初で最後の謝罪をした。ごめん、と、短く。
 す、と彼女が息をのむ。それがわかった。多分、彼女には、そのごめんの意味が伝わったと思う。それは、長い長い友達期間に育まれた、相互理解。他の誰にもできない、他の誰ともできない。いっそ絆めいた、何か。なのに。
 彼女が、泣き出すんじゃないか、と、思った。けれど、もう一度だけ、口にした。

「……ごめん、な」

 誰より長く側にいて、
 誰より俺を知っていて、
 誰より失いたくなくて、

 なのに、 

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