短編置き場
最後までありがとう 3
どんなに女々しいと言われてもいい、話したくて甘えたくて、我慢していた気持ちがどろどろと融解して、言葉になりだしたら止まらなかった。
「……友達の、カノジョ、で……」
別れた時の気持ちも情景も、あのひとの全てを語ってしまいたかった。そうすれば何かが昇華されるような気がした。その欲求に勝てずに、どろどろとした甘えた気持ちで語り続ける俺の言葉を、彼女はただ黙ったまま、相槌さえ打たずにただただ、黙って、聞いていた。
どのくらいひとりで話していたのかーー、語り終えた、と一息ついたその瞬間、今度は急速に自分の頭が冷えていくのを感じた。
そして、今更になって、やってしまった、と、思う。
言うべきではなかった。なかったはずなのに。ついさっきまでそう思って躊躇し続けていたんじゃなかったのか。
急いで、言葉を紡いだ。
「本当は、相談するのも、迷ったんだ」
自分が何を言えばいいのか、何を言っているのか、わからなくなっていた。そして、口走ってしまう。
「……ずっとずっと、知っていたから。気付いていたから」
俺は、知っていたから。知っていたのに。
俺は、俺は……、
彼女はまだ、何も語らない。まだ……。
「だけど」
泣いている気配は、しなかった。ただただ静かに、彼女は、電話の向こうにいた。いてくれたのだ。
「だけど俺は……」
自分にひどい傷を付けた、男のために。
急激に込み上げた罪悪感が、俺にそれ以上の言葉を発することを禁じた。誰が言われて許すというのだろう。おまえは俺のことが好きだから、俺は好きな人が出来ても言えなかった、なんて言葉を。さんざん今まで生殺しに、見殺しにしてきた癖に、こんな時になってそれを自分の免罪符に使おうとしている自分を。
結局俺は、自分で壊そうとしている。危ういバランスで保たれてきた、「ただの友達」の関係を。そして、彼女を。
もう、何も言えなかった。言うべきでは、ないと思った。このまま、この電話が切れるまで。それとも、彼女が、何かを口にするまで。
けれどそのとき、彼女が電話の向こうで、かすかに、笑った気がした。気がしただけかもしれない。けれど気のせいだと思うには、次の言葉を待つために澄ませた耳に次に届いた言葉は、余りにも軽やかに響いた。
(私が、あんたを、好きだってこと?)
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