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短編置き場
最後までありがとう 2

 誰かにぶちまけてしまいたかった。大丈夫いつか忘れられるよ、とか優しい言葉で慰めてくれる誰か。もしくは奪ってしまえと背中を押してくれる誰か。ただただ話を聞いて、ただただ一緒にいてくれる誰か。
 けれど、そんな人間は彼女の他に誰も思いつかなかった。彼女には言えない。彼女の想いを知っていてなお、それが話せるほど、俺は残酷にはなりきれなかった。
 けれどせめて気晴らしがしたくて、結局俺は彼女に電話をした。彼女の部屋でマンガでも読みながら馬鹿な話をしたり、彼女とくだらない議論をしたり、それだけでもいい。独りで考え込まずに済む場所に行きたかった。

 けれど電話で話し始めてすぐに、彼女は黙り込んだ。電話で黙るのは、いつもなら電話の終わりの合図だった。けれどそれでも、ひとりでただ泣いているよりマシだと、無理にでも話を続けようとした俺の言葉をしばらく聞いたあと、彼女は静かにそれを遮った。

(……どうしたの、おかしいよ)
(ちゃんと、話して)

 激しい動悸が、全身を支配した。何もない、と言ってはみたものの、全く説得力のない声だと、自分で思った。小さく彼女は嘆息し、呆れたように言った。

(気付かないと思ってるの?)

 それはごもっともなセリフではあったのだ。彼女に対して、そんなに器用に何かを隠せるはずもなかった。そして、彼女は見て見ぬ振りをしてくれるタイプでもなかった。
 本当は全てぶちまけてしまいたかった。そうして彼女にどろどろに甘えることができたら、どんなに幸せだろうか。どれだけ救われるだろうか。
 それでも俺は躊躇していた。俺が全てをぶちまけるということは、彼女を失うかもしれないほど、ずたずたに傷付けることと同じだったからだ。
 彼女はただ静かに待っている。何もないと言う俺の科白など、端から信じてなどいないだろう。俺も次に続ける言葉を見つけることができずに、電話だというのに、どちらもが黙り込んだままになった。それでも、どちらも電話を切りはしなかった。
 我慢比べにも似た時間が過ぎた。実際には僅かであったろうその間に、先に耐えられなくなったのは結局俺で、呟くように、言ってしまったのだ。

 どうしたらいいのか、わからないんだ、と。

「どうしたらいいのか、わからないんだ。好きになってしまって、けれどそれは、」

 喋り出したら、止まらなくなっていた。



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あきゅろす。
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