短編置き場
最後までありがとう 1
気が付いたら、ずっと隣にいた大親友は恋をしていた。恋をしていると、気付いてしまった。
激しく後悔したけれど、気付いたものは仕方がなかった。なんだか、彼女の肌の匂いまで変わってしまったような気がして、正直に言えば、淋しく、悲しく、そして、腹立たしかった。
普段ならそういうことには鈍感なはずの自分が、なぜ気付いたのか。しばらくの間は不思議だった。けれどその理由はすぐにわかった。
彼女が好きになったのが、自分だったからなのだと。
男でも女でもなく、ただ一緒にいられた期間が、終わってしまった。表面上は何も変わらなかったが、俺は彼女の気持ちに気付かないふりをし続けることにひどく労力をつかっていた。労力をつかっているということに気付かれてもいけない。そのことに多少いらつきも覚えたものの、なくすわけにはいかない相手だったから、必死だった。
彼女も、無理に関係を前にすすめようとする気はないようだった。俺がそれをどんなに有り難く思っていたか、彼女には想像もつかないだろうと思う。
彼女がすきだった。けれどその「すき」は男女間のloveではなく、人間としてのlikeでしかなかった。けれど、loveより大事な、need。俺にとっては、いちばん大切な人間であることに変わりはないのに、そこには大きな差があった。けれど、失うわけにはいかなかった。そうして俺は彼女の気持ちを見殺しに、生殺しにし、それを苦く思いながら、それでも関係を維持し続けた。彼女が何らかの期待を抱いているだろうことは予想に難くなかったが、それも俺は見殺しにした。し続けた。
いつかは応えられるかもしれないではないか、と、説得力のない言い訳をしながら。
……そして、
俺が今度は恋をした。してしまったのだ。
その相手は、
……彼女ではなかった。
好きになったからといって付き合ったわけではない。そのひとは俺を好きだと言ってくれた。俺も好きだと伝えた。けれどそれは叶えられない恋だった。そのひとは、友達のカノジョだったから。
二人で最初で最後と誓い合って、泣きながら好きだと言い合って、泣きながらキスをして、泣きながら抱き合って、泣きながら別れた。泣いてばかりの逢瀬のあともまだ泣いてばかりいて、忘れられる気は少しもしなかった。女々しいとは思っても、どうにもならなかったのだ。
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