短編置き場
叶えられなくてごめんね 1
約束を、
叶えられなくて、
ごめんね。
知り合ってから、そして付き合いはじめてから2年。いつも一緒にいたくて、なにもかも知りたくて、すべてあげたくて、ぜんぶ手に入れたくてーーそんな恋が、終わろうとしている。
本当はもう、ずっと前に終わってるべき恋だった。でもそれができなくて、引き際を間違えて、どろどろに傷つけあって、それでも、諦めきれずに、三か月。
けれどもう、私は限界だった。別れを切り出しては説得され、泣かれ、引き留められ、それを繰り返した三か月で、私は身も心もぼろぼろ。体重は落ち、目眩貧血当たり前、煙草は増え酒量も増え、食欲皆無で気力もない。しまいには、別れを切り出す気力もなくなりそうだったけれど、それを振り絞って、今に至る。
目の前で男の威厳なんてどこへやらかなぐり捨てて、ぼろぼろぼろぼろ泣いている彼が、私の彼氏だったひと、だ。
俺の悪い所は直すとか、何をしてあげればいいのかとか、一生懸命になっている彼は、確かに可哀想だった。仮にも2年間付き合い、好きになった人だから、そんな姿を見るのは悲しい。そうしていつも元通りになるのを繰り返したのだけれど、今日はそうはしないと決めていた。
目の前の男を、私は切り捨てようとしているのだと、ちゃんと認識することに決めて、今日この時に、告げたのだ。
中途半端に優しさなんて向けてはならない。ならなかったのだ。
こんなに傷つけ合うまでそれに気付けなかった私達は、愚かだった。
「……今更、なおしてもらうつもりなんて、ない」
そう、はっきりと言い放つ。
「そんなチャンスなんて、もうないから」
期待など持たせずに。
最後にいい人で終わろうとしていた自分は愚かだ。
最後に優しい終わり方をしようなんて夢見た自分は愚かだった。
切り捨てて、いくのだから。
(鬼になれ)
(鬼であれ)
邪魔なんだ、優しさなんて、今は。
要らないんだから、私は、この人が。
「……どうして……」
「どうして? 説明されなきゃわかんない?」
「わからないよ」
「考えもしないのね。じゃあ、いいじゃない全て私の気まぐれで。邪魔になったのよ、要らないの、あんたなんて」
「……」
鬼であれと決めたら、相手を傷つけるための言葉なんていくつでも生まれた。幾らでも口に出来そうだった。目の前の風景に心を痛めることを、やめてしまえば、それだけで簡単に、鬼になれた。
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