短編置き場
さよならの行方 4
倉見、高田、本橋、春臣、亜也子。
未だバンド名もない五人。けれどこの五人でステージに立つことに慣れつつあった。
選曲会議もスムーズに終わり、配られたバンドスコアと候補曲のCDを手に、それぞれが帰路につく。あまりに急に決まったライヴのため、全員での練習時間はほとんどとれない。冒険は避け、無難な選曲になったことは否めなかった。
「亜也子さん、帰ろう」
「ん」
春臣の声に亜也子が微笑んで答える。明日は日曜日、このまま泊まりに行きたい、と春臣は目論む。
二人の間のことは、特に隠しもしないが公表もしていない。それで支障もなかった。
「亜也子ちゃん、ごめんちょっと」
春臣の車へと歩き出した二人の背に、倉見が声をかける。亜也子はちょっとごめん、と春臣を待たせて倉見に駆け寄っていった。
倉見までもが春臣に背を向け、何かを告げた。びくりと亜也子の肩が揺れたのを、確かに春臣は見た。
(……?)
すぐに話は終わったようだった。春臣は亜也子が振り返る気配に、慌てて目をそらす。
「ハル、お待たせ」
亜也子の声に初めて気づいたかのように、春臣は彼女に振り返る。
「じゃあ来週。ごめんな、ハル」
「いえ」
倉見の声に答え、小さく手を挙げる。亜也子は答えなかった。
「――行こ、ハル」
亜也子が春臣を急かす。彼女は服の袖を引いた。いつになく甘えた仕草で。
拒む理由は特にない。春臣はそれに従って、車に乗り込む。亜也子も助手席に座った。
甘えられるのは好きだ。けれど妙にかたい表情に、有頂天にもなれなかった。
走り出した車で、先刻配られたばかりのCDをかけた。クリスマス、バレンタインの時の曲をシャッフル、プラス新曲を二曲。それで二度のステージをこなす予定だった。
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