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短編置き場
叶えられなくてごめんね 2

「じゃあ、さよなら」

 なるべく、なるべく冷徹に、静かに、告げた。
 彼は、また、どうして、と呟く。

「どうして? ……ずっと続くって、一緒にいるって……、来月の約束も、したのに、どうして」

 私は返事をしないままに、車を降りた。けれど、背後でどうして、どうしてって、子供みたいに呟く彼の声が、癇に触って、思わず声を荒げていた。

「そうやって、自分で何もわからない、考えない、愚鈍な馬鹿が嫌いになったのよ! 頭の悪い子供に、いつまでも付き合ってやる義理なんてないでしょう!?」

 そうしておいて振り向いた時に目に入った彼の顔は、今までに見たことのない、驚きと絶望と悲しみとーーそういうものが混ざった、暗い暗い、驚愕の表情だった。
 けれどその顔にも、私は何の感情も抱くまいと決め、車のドアを閉めた。

 ひどく空気が冷たい、冬の夜だった。私の住む街では、真冬でも雪が降ることなどまずない。ただただ冷え込むだけだ。
 振り返るまい。
 私はそう思う。
 ブーツのかたいかかとを鳴らして、私は家路を急ぐ。車が動き出す気配はしなかった。

 振り返るまい。決して。
 背筋を伸ばし、足早に、確かな足取りで歩く。ひどい女になる。鬼であれと心に決めて、どんどん、歩く。
 彼は追っては来ない。いつも受け身、自分から頑張ることなどしない。それを不満に思い始めた時から既に、多分私の中でこの恋は終わっていたのだろう、と、今なら思う。
 重荷だった。

 車はまだ動かない。私は今車がとまっている場所から歩いて3分の、自分の部屋についた。鍵をあけ、部屋に入り、鍵を閉める。靴を脱ぎ捨て、ずかずかと家に入ると、そのままの格好でベッドにダイブした。

(どうして)
(どうして)
(どうして)

 その問いは、彼だけではなく、自分にもある。
 どうしてこんなことになってしまったのだろう。
 好きで好きでどうしようもないほど好きだったのに。見捨てられなくて切り捨てられなくて、何度もやり直してしまうほど、この恋を諦められなかったのに。最後にいい顔がしたくて、優しい自分でいたくて、ずっと別れを失敗してきたほど、この恋を大事にしてきたはずだったのに。
 どうして。



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