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短編置き場
日曜の昼 1

 午前十時。
 幾ら天気が良くても、二月の路上は寒い。
 幸い、そうそう雪が降る土地ではない。風がなく、しんと冷えた空気は、昼から少しずつ暖かくなるかもしれない。
 立てられた看板に、昼から夜までずらりと並んだ出演者の名前。
 ちらほらと集まりつつあるメンバーが、それぞれ楽器やらマイクやらを並べだしていた。

「おはよーございます」

 寒さでまわらない舌で、春臣はなんとか口にした。高田と倉見が口々におはようと答え、春臣はギターを置くと手伝いに入った。
 何時からやっていたのか、この寒いのに高田と倉見はうっすら汗をかいていた。確かに会場は既にほとんど準備されている。残りはPAくらいのものらしかった。

「ハル、こっちいいから、人集めてテント張れや」

 倉見からそう指示が出る。片手を挙げて答えると、見慣れた顔の幾つかに声をかけて、テントの準備を始めた。
 なるほど、風のない日だまり、体を動かしていればすぐに体は温まった。汗をかくまでにはならなかったが、上着の一枚くらいは脱げそうだった。テントを張り終える頃には、春臣はファーのついた、黒いダウンコートを脱いでいた。

 午前十一時。
 少しずつ気温が上がってきていた。春臣はコートを着ないままでいた。
 ステージが下に見える。すり鉢を半分に割ったような場所の、一番深い場所にステージがあった。一応、こういう催しをするための場所だ。階段状になった観覧席は少し冷たかったが、座り心地は悪くなかった。
 アンプをつながないまま、ギターを爪弾く。隣にさりげなく倉見が座り、煙草に火を点けた。煙はこっちに向いてこない。風下を選んで座ってくれたらしい。
 どちらも何も言わなかった。春臣は不意にギターを爪弾く手を止め、

「――倉見さん」

と、呼びかけた。倉見は黙ったままだったが、聞いていないわけではないようだった。

「音楽馬鹿に幸せになって欲しいって、今でも思いますか」

 問いかける。答えは返らない。
 春臣は構わず、次の問いを投げた。

「……俊さんはどうして、いなくなったんですか」
「それは俺も、知らない」
「俊さんは、亜也子さんを、好きだった?」
「多分ね。亜也子ちゃんは気付いてなかったと思うけど。でも、何でそう思った?」

 携帯灰皿に煙草を押し込みながら、倉見が聞き返す。



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