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ドレミファンタジー 1
 茶色くてふわふわの髪が、机に突っ伏して寝てる顔にかかって、何だかくすぐったそうだった。
 毎日遅刻ぎりぎりだったり、放課後もさっさと教室を出ていったりする理由を、私は無理に誘われて連れて行かれた野球の応援に行くまで知らなかった。
 お調子者でいつも元気そうな彼と、本の虫で帰宅部で遊びにもほとんど付き合わない私とでは何の共通点もなかったし、せいぜい用事があればちょっぴり話すこともあるかな、位の関係。つまりは、本当に「ただのクラスメイト」。
 ところが、ありがちな話なんだけど、応援に行った時の彼の野球の真剣さと、試合に勝って応援席に挨拶に来たときの晴れがましい笑顔に、今更一目惚れ。本当にありがち。
 とは言え、ヘッドフォンしたまま寝てる水谷くんの斜め後ろが私の席で、これが私の精一杯の勇気。隣の席前の席後ろの席、どうせ頼んで変わってもらうんだったらそういう所にすればよかったのに、本当に話しかけられたら挙動不審になるかも! とか変な心配して、わざわざ斜め後ろの席を選んでる自分…。
 今日はテスト前で、部活も補習もないから、業者がくるとかで学校も早い時間に追い出される。だからみんなどんどん教室から出て行って、あっという間に二人きりになっていた。

(うわ)
(きっともう二度とないシチュエーションかも)

 テスト前だから、って友達の誘いを断っててよかった。まだ寝てる水谷くんの斜め後ろの席に座って、二人きりのシチュエーションを堪能することにした。
 水谷くんのヘッドフォンからはどんな音楽が流れるんだろう。
 でも私はきっとそれを知ることはないんだ、だって所詮私の勇気は斜め後ろどまりなんだもの。しゃべりもしない、相手が寝てる状態だって「ふたりきり」なんて喜んじゃうレベルなんだもの。
(自分で自分が情けない…)
 ふぅ、と小さくため息をつきつつも、起こしてコミュニケーションをとろうとは思えないし、仕方なく勉強を始めた。
 視界の端に水谷くん、しかもふたりきり。ものすごく贅沢。そりゃ、仲良くなりたくないわけじゃない。

(あのヘッドフォンの)
(なかみが知りたい)

 知りたかった。
 数少ない共通点が持てるかもしれない話題なんだけどなぁ…。
 ヘッドフォンから音が漏れてこないかな、とか淡い期待もして、耳も澄ましてみたけど、聞こえるのは自分のシャープペンシルが字を書く音だけ。軽い失望。
 遠くの方で、まだ残っている人がいるのか、時々声が聞こえる。驚いてびくりと肩が震える度に、慌てて水谷くんを見る。起きてしまったら、この穏やかで幸福な時間はおしまい。起きないで、とも思うけど、起きたら仲良くなれるかな、とも思う。

(みずたにくん)

 聞こえるはずのない呼びかけを私は何度もくり返す。いつも。それがテレパシーみたいに伝わるなんて到底思えないけど。

(みずたにくん)
(いつもなにを聴いてるの)
(いつもなにを)
(思って)


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