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御礼は、明日、必ず 2
「だって、今、サンキュ、って……」
「……? うん」
「え?」
「は?」
二人で、赤い顔をして。
互いに、わけがわからなくなっていた。
(わかる、って、何が……)
うまく血の巡らない頭で、花井はぼんやり考える。
けれど花井の頭が答えをはじき出すより早く、彼女がくしゃと髪を掴むようにして笑った。
呆れたように。
「――失敗しちゃった」
そしてそう、呟いて。
「褒めてくれてサンキュ、だったんだよね?」
首を傾げて、赤い顔で笑って、そう言った。
花井はおー、と頷く。
「馬鹿みたい。自分でバラしちゃった……」
そして、彼女は髪から手を離して、胸に拳をあてるようにしてから、深呼吸した。
「――じゃあこれ、……」
花井が小さく尋ねる声には曖昧に笑んで答えず、彼女は慌てたように一歩を踏み出す。
(コイツが、くれたんだ)
それに気付いて、体がふわりと浮いたようになった分だけ、花井は一瞬、出遅れた。
「ちょっ……、」
呼び止めようとしたその時には、もう彼女は昇降口を出て、眩しい光の中にいた。
「待てって……!」
彼女の名字を呼ぶ。意図したよりも大きな声がでて、彼女よりもそのまわりが幾人かが先に振り返った。
はっとして口を噤んだが、
「……花井!」
つよく、声がした。
逆行の中で彼女が振り返るのがわかった。眩しくて顔はよくわからない。
けれど、明るい、つよい、声だったから。
「誕生日、おめでとう!」
ひらひら、と手を振る影が、そのままきびすをかえして早足で歩き出した。花井は慌てて昇降口を出て、その背中に声を投げる。
「ありがとな!」
彼女は振り返らない。けれどなびいた髪の隙間から見えた耳は真っ赤で、花井はまた少し、体温があがるのを感じた。
(明日)
明日、会ったら。
花井はそう考えながら、きびすを返す。部室へ向かって歩き出した。
頭のバンダナに、無意識に手をやりながら。
(明日会ったら、)
(まずお礼言って、)
お礼は明日、必ず
(ああ、)
(ついでにアイツの誕生日きいて、)
(ついでに携帯とかもきいて、)
(――よし、)
100429
1日遅れた…
花井くんはぴば!
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