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御礼は、明日、必ず 1

 靴箱に、密やかに置かれていた袋の中味はバンダナだった。花井好みの色、柄。花井はそれを手に取る。

(ああ、オレ、誕生日か……)

 今日初めて、それを意識した。
 密やかなだけあって、名前も書かれていない贈り物を、花井はそっと頭に巻いてみる。
 真新しいからこその生地のかたさを心地よく思いながら、何の変哲もない紙袋をひっくり返す。ひらりとカードが舞い落ちてくることもなく、結局、誰がくれたのかという手がかりは何も見つからない。花井は、几帳面にその紙袋をたたみ、鞄にしまった。

「――あ、」

 背後から、小さく声がした。花井は振り返る。
 帰り支度の済んだクラスメイトがそこには立っていた。

「おう」

 片手を挙げると、彼女も首を傾げながら小さく片手を挙げた。柔らかな黒髪が揺れる。

「今日、野球部お休み?」
「ミーティングだけだけど……なんで?」

 やわらかに尋ねられる声を、花井は割と好きだと思う。

「急いで走っていかないから」
「ああ、……うん」
「珍しいなと思って」
「そっか」

 うまい会話ではなかったが、互いに少し笑う。気まずくはなかった。

「今から帰んのか」
「うん」
「気をつけて帰れよ」
「ありがと」

 花井は靴箱から靴を出すと、ぱんと下に落とすようにしてそれをはく。彼女もそれにならって、靴をはいた。

「ねえ、それ」
「は?」
「バンダナ」

 ちょい、と彼女の指がかがんだ花井の頭に触れた。ざわ、とからだ中にその感触が駆け抜けるのを花井は感じる。

「似合うね」

 すぐに離れたゆびさきと、優しい声に、身動きが取れなくなった。
 それでも、

「おー、サンキュな」

 それだけは、口にした。
 早鐘になりつつある心臓に気付かれないように、なるべく自然に、なるべく何気なく。
 じゃあオレ行くわ、と付け足して、ここから慌てて逃げても、不自然じゃないように。

「えっ……?」

 けれど返ってきたのは意外な反応で、動かないはずの花井の顔は、俊敏に彼女の顔を見た。

「なんで、わかるのっ……」

 赤い、赤い、顔で。
 そう呟いた彼女は、ひどく可愛かった。

(かわいい、って、何を……)

 自分の顔まで赤くなりつつあるのを、花井は自覚した。

「え……、何が?」

 けれど、彼女の言葉の意味は飲み込めず、花井は尋ね返す。



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