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It's only a paper moon.(水谷)

 幼稚園のころ。
 文貴とわたしの家は近くで、お母さん同士も仲が良かったから、よく、一緒に遊んだ。
 わたしのお母さんは折り紙が上手で、いろんなものを作ってくれた。動物たち、遊ぶもの、それから、指輪。
 文貴のお母さんが教えてくれた。結婚式では指輪のはめっこをするのよ。幼かったわたしたちは、にこにこしながらそれに従ったんだ。
 何度も何度も、
 ちかいます、
 そう繰り返した。
 意味も知らずに。


It's only a paper moon.


 紙袋の一番下はケーキ、一番上にはプレゼントのマフラー。
 その間にそっと忍ばせた折り紙の指輪は、お母さんに教わってわたしが折ったものだ。金色と銀色の折り紙で作ったそれは、当時のわたしたちには一番の贅沢だった。

(ほんものみたいにぴかぴかで)
(きれいだね)

 そう言って二人で喜び合った。

(覚えてる?)

 あのころからずっと、すきだった。
 心の中でそう唱えながら、文貴が紙袋を開けるのを待つ。
 取り出されるプレゼントのマフラー、それから。

「うわっ、なつかしー!」

 壊れものを扱うみたいにそっと、文貴は紙袋の中に手を伸ばす。てのひらに拾い上げた二つの指輪に、文貴が声を上げた。

(おぼえて、た)

 私はふわふわ体温が上がってくるのを感じた。

「光ると本物みたい」

 そう、上機嫌に、笑うから。

「ありがとね!」

 わたしも、笑った。

「本物みたい?」
「うん」

 ゆっくり、じっくり、文貴は指輪を見つめた。そのあとで、そっとひとつ、わたしに差し出した。

「……ひとつは、あげる」
「え?」

 聞き返す私のてのひらに重さのない指輪が優しく落ちて、

「ひとつずつ、持ってた方が、大事な指輪らしいでしょ!」

 そして、文貴がそう、告げるから、
 だから、

「――うん」

 幸せな、幸せな、鼓動が増した。

「……、ケーキ食べる?」

 わたしたちはもう子供じゃないから、偽物だってわかってても指輪の交換なんて、出来ないけど、

「生クリームたっぷりだよ」
「やった!」

 優しく恋を続けることは、できるから。


It's only a paper moon.

(あなたが信じてくれるなら、)
(紙の指輪だって、本物)


091231
水谷誕生日企画「100104」様に提出!
参加させていただき、ありがとうございました!

It's only a paper moon.はジャズスタンダードの一曲です。
あなたが信じてくれるなら、紙で作った月も本物になるよという、ラブソングです。機会があったら聴いてみてください。


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あきゅろす。
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