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心惹かれて百色万華鏡(島崎)

 島崎もうすぐ誕生日だね、と、あたしは言った。そう言った自分が今日は誕生日だっていうのに。島崎は目も上げずに、そうだな、とだけ答えた。
 島崎は、今まで部活ばっかりだったから、と、名簿の整理を手伝ってくれていた。教室で二人きりのシチュエーションになんとなく帰りがたくて、うだうだと無駄話を続けるあたしに、島崎はなんとなく付き合ってくれてた。
 所詮三年間片想いで終わる恋だ。あたしはそう思う。玉砕覚悟で行動するのも潔いけど、そんな勇気すらない。だからどうせならなんか記念が欲しい。それで優しく潔く諦めるのもいいなと、一瞬、欲が出た。

「島崎あたしさ、今日誕生日だったんだけど、」
「おう」
「来週、島崎の誕生日になんかあげるから、あたしにもなんかちょうだい」
「……催促すんのかよ……」

 軽く苦笑しながら島崎が呟く。えへへとあたしは笑って、するのー、と答えた。

「高校三年間に、一回くらい男からプレゼントとか貰ってみたいんだもん」

 ちょっと嘘だった。男から、じゃない。島崎から、がよかったから。でも島崎は少し笑って、しょうがねぇなと言う。

「高いもんじゃねーぞ」
「いい、いい、100円とかでも」
「そうか」

 島崎が席を立つ。するりと教室から出て行く。えええ、とうろたえてるうちに、すぐに戻ってきた。
 手に持ってるのは小さなそっけない白い袋だったけれど、ちょこんとピンクのリボンが見えた。

「やるよ」

 静かな所作で差し出された袋に、すごく大事な壊れものを受け取るみたいな気持ちで、手を伸ばした。

「おめでとう」
「……え、島崎これ、」
「ちゃんとよこせよ俺にも」

 島崎はわずかに笑って、じゃあなと言った。うん、とも答えられない内に島崎の背中は教室から消えた。
 手の中に残された白い袋を、静かに開く。赤い、綺麗な花柄の筒が入っていた。
 万華鏡だ、そう思ってそっと手を伸ばす。久しぶりに手にした万華鏡をそっと覗く。
 覗き込んだ万華鏡は、きらきら、さらさらと綺麗で、あたしはなんだか泣きたい気持ちになった。
 ありがとうも言えなかった。
 そもそも、私がもらっていいのかすら、わからなかった。
 でも。
 それでも、うれしかったから。
 今日貰えたことが、うれしかったから。
 あたしの中でふくらむ期待と一緒に、勇気も覚悟もふくらみはじめていた。

心惹かれて
百色万華鏡


(待ってて、)
(きみの誕生日には、)
(ちゃんと言うから、)

(……好きだよ、って、)



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