present for you
いつかわかるよ 2
会釈を交わして、目配せして。
けれど互いに微笑み合うでもなく、ただ、にこやかにすれ違う。ぎこちなさもない、儀礼的な仕草で。背後で、準備室のドアが開く音がした。
「色気なーい」
「つまんなーい」
口々に文句を言う三人の頭を、軽くパンフレットではらうようにして、くすりと笑った。
「ほら、朝の会の時間になるわよ、急ぎなさいね」
はーい、と、明るく返事して、さっきしたばかりの注意も忘れて、少女たちは廊下を駆けてゆく。自分が中学生だった頃に比べたら、ずいぶん短いスカートをひらひらと翻しながら。
心の中で笑いながら。
職員室の奥、ロッカーで携帯電話を開く。秘密の恋の約束が、いとも簡単にそこには届いている。
今日の夜、部屋で待ってる。
うん、と、そっけない返事だけを手早く返す。素知らぬ顔で自分の席に戻ると、予鈴が鳴った。
「さて」
机の上の名簿を手に、立ち上がる。
今日も、長い一日が始まる。
職員室を出ると、また、前に見えた平賀の姿。
また、愛想なくにこやかに、すれ違う。
目配せして、会釈して。
当たり前の仕草、儀礼的な仕草で。
けれど、あんまり爽やかに彼が笑うので、
そんな風に、あんまり鮮やかに、彼が騙すので。
すれ違ってしばらくしてから、ほんの少しだけ、笑った。
ほんとうに、ほんの、すこしだけ。
ごめんねこどもたち、
(いつかきみたちにもわかるよ)
すれ違いざまの目配せ。
交わされない微笑み。
曖昧にかわす会話。
秘密の恋の鉄則。
100330
9500hitあまねさま!
お題:先生同士の恋
遅くなってすみません…!
苦情そのほかいつでも受け付けますので…!
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