present for you 夜の散歩道 2 「どうせコンビニだろ」 「へへ。お見通しだ」 照れたように香恵は笑って、横に並んだ。 幼稚園、小学校。集団登校の期間中、いつもこの道を隣り合わせで歩いて通った。中学、高校。たまに一緒になると照れくさいけど嬉しかった。その道沿いにコンビニはある。 夜中だというのにひどく眩しいそこに、香恵と一緒に入る。香恵は喉に良さそうな柑橘系のホット飲料と肉まん、自分はホットコーヒー。二人分の会計を払って、先に店を出た。 「敏生、私払うよ」 「あーいいよ、それくらい」 追ってきた香恵の科白に、ひらひらと手を振って答える。 ひとりではペットボトルを開けられない香恵のために、ふたをゆるめてから差し出す。それから、自分のコーヒーのプルタブをひいた。 ぱきん、という音がやけに響いた。 「でも」 「いいって」 長く一緒にいて、何かを奢ったことはほとんどない。奢ってやるよとかっこつけることが気恥ずかしかった。香恵もそれを期待することはなかった。 「めずらしいね」 心底不思議そうに、けれど嬉しそうに、香恵が呟く。 コーヒーの苦味に顔をしかめるふりをして、苦々しげに俺は付け足す。 「あれだよ、あの……お祝いみたいなもんだよ」 「え?」 「伊藤から聞いた。コクられたんだろ」 「――っ」 街灯と街灯、ちょうど真ん中あたりで、薄暗かったから表情はよく見えなかった。息をのんだことしかわからなかったけれどなんとなくわかる。思い切り赤い顔。 その顔を見たくなくて、街灯が近付く前に、香恵の一歩前に出た。斜め後ろの照れた気配に、それでも小さく傷つきながら、続く言葉を吐き出す。 「安上がりで悪ィな」 振り返らないままに告げた声。 「……ううん」 小さく、ごく小さく香恵が答えた。静かな街並みにはそれで充分な声音で。 小さな砂利を踏みしめたらしい。足裏でじゃり、と小さな音がする。薄いスニーカーの底を通しても、ずきんと嫌な痛みが体に響いた。 こんな日に限って月は冴えざえと輝く。 香恵の顔を見たくなかったのに。赤い顔、伊藤を想う香恵の顔。 自分の知らない香恵の顔。 「敏生、伊藤と仲いい?」 「フツー」 そう、普通。 特別仲が良くもない、けれど悪くもない。同じ空間にいて楽しいわけでもないけれど、苦痛でもない。そんな、よくある、普通。 [*前へ][次へ#] [戻る] |