present for you I'm not yours 3 縋らない。 甘えない。 仲のいい恋人めいたふるまいも、甘い言葉も、束縛すらも求めない。 「追いかける恋には飽きたからね、私」 その代わりに、安穏とした、追われて愛されて甘えてばかりの恋を、悠斗に与えない。 「……俺は?」 「追われる恋には飽きたでしょ?」 「……」 呆気にとられた顔で悠斗が足を止めた。二の句が継げなかった、という表現の方が正しいかもしれない。 足を止めないまま振り返り、奈津乃はぱかんとあいたままの悠斗の口を見た。そして、奈津乃は笑ったまま続ける。 「たまには追いかけるといいわ」 奈津乃はすいすいと建物を出る。悠斗がついてくるかどうかは、割と勝算の高い賭けだった。 (追わない、) (あなたのものにはならない、) (だから、) 振り返らずに奈津乃は足を早める。スニーカーの足音が耳に届いても、奈津乃と呼ぶ声が届いても、振り返らない。 (追いかけてよ) 先刻の授業中に、自分の話題で盛り上がっていたグループの横を、奈津乃はするりと追い抜いていく。 追いかけてくる悠斗の急ぎ足の気配を、しっかりと感じながら。 「奈津乃!」 肩に触れる悠斗の手がひどくあつくて、奈津乃はどきりと胸が鳴るのを感じる。 悠斗が隣に並んだ。 「奈津乃、待てって」 「なに」 「俺追われないと燃えない……」 「それ、調子にのってるだけって言わない?」 「調子のって……っておまえな、」 「私はもう追わないわよ」 ぴしりと言い放った奈津乃の横、けれどそれでも悠斗はついてくる。 「わたしはあんたのものじゃない」 「でも俺の、」 「カノジョね」 「なら」 「じゃああんたはわたしのもの?」 悠斗が目を見開いたあとで、立ち止まる。今度は奈津乃も止まった。 二人で視線を絡めて、それから奈津乃はうふふと笑う。 「おまえの、もの? おれが?」 聞き返しながら、悠斗はついにげらげらと笑い出した。 (わたしはあんたのものじゃない) ――本当は、とっくに自分が悠斗のものであることを奈津乃は理解している。甘やかしたい縋りたい。甘い科白も、恋人めいた仕草も、束縛する権利もすべて欲しい。けれど。否、だからこそ。 (――あんたのものにならない、) (ふりをする) そうすることでしか、悠斗を手放さずにいる方法がないのなら。 心の中で唱え続ける。 (I'm not yours) 091020 5400hit さきさまへ! お待たせして、すみません。 こんな感じで、いかがでしょうか…。 また、よろしくお願いします! [*前へ] [戻る] |