present for you 吐く息が白かった 4 (千聡) 鳥居のすぐ横に、寒そうに立っている人影に目を止め、千里は思わず立ち止まる。その千里の動きは集団の中でイレギュラーだったせいで、ひどく目立った。千聡はすぐに千里に気付いて、まっすぐな視線を向けてきた。 どちらも動けない、長い長い一瞬間がそこにはあって、千里も千聡もただ見つめ合ったまま、どうすればよいのかわからなくなっていた。 会えたなら。 千聡に会えたなら、 どうすれば、 何を言えば…、 (千聡) (千聡) 自分の視界が、やけにきらきらとして、ぼやけだしたことに千里は驚いていた。自分が泣きそうになっていることを知った。 千里が泣き出しそうになるのをこらえているうちに、千聡が先に視線を外して歩き出した。そこで千里は思い出す。千聡がもしかしたら一人ではないかもしれないということを。 それを考えている間にも、千聡の背中は、ゆっくりと、けれど確実に遠ざかっていこうとしていた。 それを見た途端、千里の足は、一歩を踏み出していた。何かを考えるより、ずっと、はやく。 砂利に足をとられながら走る千里の視界にうつる、千聡の背中がだんだんに近付き、そして千里はその左腕をとった。 振り返った千聡はじっと千里を見ている。は、と息を大きく吐き出した千里は、その息の白さに驚く。 「…千聡」 千聡は静かな瞳で千里を見ている。千里は微笑もうとして、けれどそれは今度は失敗する。 「ちさ、と…ごめんね」 先刻こらえたはずの涙がじわりと滲む。歪んだ視界の中で、けれど千聡は静かで穏やかだった。 自分の熱をもったような吐息が、目の前を白くさせては消えていく。 「千里さん」 静かに静かに口を開いた千聡の、けれど確かに吐かれた息は、やはり白かった。 「千里さん、…会いたかった…」 「…うん」 「会いたかったんだ…」 千里は静かに頷き、そして、今度は微笑むことができた。心から。 今なら言えそうな気がした。 千聡が、 好きだと。 けれど今は、ただ、黙ったまま。 少しだけ、言葉の要らない二人でいたかった。 微笑みあってから、手をつなぎなおして歩き出す千里と千聡の、 吐く息が白かった。 20090907採録 2009年 年賀&オープン記念のフリー小説でした。 [*前へ] [戻る] |