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present for you
せめて、朝までは、 1
!注意!
このお話は殺し屋さんのお話なので、人が死んだりします!
血みどろとかはありませんが苦手な方はご注意ください!



 ユエは、眠るかおり――サツキの頬を軽く撫でた。
 金曜の夜――日付は既に、土曜だったが――、ソファで潰れてしまった彼女は静かに寝息を立てる。それはひどく珍しい光景だった。誰にも心を許さない、誰に対しても、どんな時にも油断しない、それが彼女の、そして自分の足を踏み入れた世界の「常識」だった。

(それでも、俺には、少しは油断してるか)

 白い頬に僅かに赤みが差していて、それが逆に良く出来た人形のように見せていた。触れれば確かに温かいそれに、ユエはかすかに、ほんのかすかに、笑った。
 サツキのほかには誰もいない、広い一軒家。それをいいことにユエはよくこの家に入り浸っている。呼ばれたわけでもない。自分から頼んで訪れたわけでもない。ただ、ただ、なんとなく。そうすることが当たり前のように、なんとなく、寄り添っているのに、慣れてきていた。どちらもが淋しい人間だということかもしれない。そんな風に、ユエは思う。
 かつん、と、普通なら気付かないようなかすかな物音に、ユエは肩を震わせる。サツキの瞳が開くかとそっと彼女を見やったが、彼女はまだ小さな寝息をたてていた。

(上か)

 サイレンサーのついた銃のありかを確認する。上着の内ポケットに入ったそれを手袋をしてから静かに取り出し、上着をサツキにそっと、かけた。銃をベルトに挟みこむ。学校指定のワイシャツの内ポケットに隠し持ったナイフを右手に持つと、それを脱ぎ捨てる。いつも鞄に入れている、真っ黒いライダースーツの上着を裸の肌の上にそのまま着込んだ。金髪を黒いバンダナで隠し、部屋の電気を消してから、リビングを出た。
 わざと足音をさせながら玄関へと移動し、その道すがらあちこちの部屋の電気をつけたり消したりを繰り返す。二階、もしくは屋根裏あたりに潜んでいるらしい何者かに、「気付いているぞ」、と伝えるために。
 階段へと足を運ぶ前に、玄関を開けた。音を立ててそれを閉め、外に出たように見せかける。子供だましな方法だったが、そこから後、ユエの足は全く足音を立てない。するすると階段を上り、かすかな物音の気配を追う。

(寝てる間に、決着をつける)

 二階にあるのは四部屋、もともとサツキが寝るための部屋がその中の一室になる。よく下調べをした上で忍び込んでいるのなら、そこにいる可能性が一番高そうだ。木製のドアに慎重に耳を当てると、確かにそこには息遣いが感じられた。向こうは向こうで、警戒しているのだろう。



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