[携帯モード] [URL送信]

present for you
せめて、朝までは、 3


「……!?」

 今更になって目を覚ましたらしい獲物が、瞳を見開く。

「遅かったな」

 酷薄に笑んだユエは、静かに、静かに、語りかける。

「あちこちに、人はいるから、運がよければ、助かるだろう」
「……!」
「もっとも、助かれば警察行きだろうがな」

 車止めの上に立たせた獲物の耳に囁く様にして、ユエは語る。

「どっちがいい? 口は自由にしてやるから、好きに選べ」

 獲物の背を海に向け、ユエは口を封じておいたガムテープの端を掴んだ。獲物の重さで、少しずつそれははがれ、獲物の体は海へ海へと、傾いていく。
 遂に重さに耐え切れず、一気に剥がれ落ちたガムテープをその場に投げ捨て、すばやい動作でユエは車に乗り込む。エンジンをかけたままの車はスムーズにバックし、スタートした。獲物が叫び声をあげたのか、死ぬことを選んだのかはわからないままに、ユエはまっすぐにその車を走らせた。

(まだ、寝てるか)

 サツキの家を出てから、まだ十分も立っていなかった。あと少しでサツキの家、という場所にあるコンビニ、駐車場の一番隅、転院から視覚になる場所に車を止めると、ナンバープレートとエンブレムに貼り付けたガムテープをはがした。バンダナを外し、手袋を外し、コンビニへ入る。靴は後部座席に常に置いてあるものを拝借した。

「お、また来てんのか」

 金曜深夜のアルバイトの男は気安く、ユエに声をかける。おう、とだけユエは答え、サツキの好きなチョコレートの生菓子を探す。コンビニでチョコレートパフェを見つけることはできない。結局、ティラミスとチョコクレープを手に取った。それから自分の煙草と、少しの飲み物をレジに差し出すと、手際よくアルバイトの男がレジを通し、袋につめていく。

「最近、おまえのせいで彼女のほうがこねえよ」
「そりゃ、悪かったな」

 アルバイトの男の科白にわずかに笑みを返しながら、金を払い、コンビニを出た。もう一度手袋をはめ、車に乗り込む。
 ガレージに車を戻し、靴も元通りに戻した。出てきたとおりに二階の窓から部屋へ入る。静かに静かに階段を下りると、サツキはまだ、わずかな寝息を立てていた。


[*前へ][次へ#]

3/4ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!