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大学生と講師のシリーズ
揺れる、揺れる(4年7月) 9

「不自由な、制約の多い付き合いになると……思います」
「はい」
「……それでも、いいですか」
「先生、は?」

 早智子は、探るような瞳で訊き返す。松下はふっと笑った。

「うん……訂正します、それでも……、俺は、きみが欲しい。いい?」

 はい、という呟きのあとで、早智子は笑った。涙でくしゃくしゃだったけれど、壮絶に美しく華やかな、笑顔だった。

「……送ります」
「はい」

 松下は、車を発進させる。信号でとまると、松下は空いた左手で早智子の右手を探した。エアコンが寒いという早智子の指先はひどく冷たかった。

(薄い毛布を積もう)

 そんなことをふと、考える。
 どちらも語る言葉の途切れた車内は、けれど、幸福に満ちていた。早智子の指先が松下のそれよりも温まったことに松下が気付いた時には、早智子は助手席で静かに、寝息をたてていた。
 松下はかすかに笑う。
 油断しきった表情で眠る早智子に触れるのは躊躇われた。頬の涙のあとが痛々しかったが、表情自体はひどいものではなかった。松下はそっと手を離す。
 エアコンを弱め、信号で停車した時に脱いだ自分の上着を早智子にかける。
 早智子の家の大体の場所はわかる。松下はハガキに書かれた住所を記憶していた。電車で一時間近くかかる道程だったが、車でも高速を使えば一時間半ほどで近くまで行けるはずだった。
 週末の高速は、少しだけ混んでいる。
 近くになればナビもあてにはならない。起こすのもしのびなく、わざわざ別れるために起こすのも、淋しいものがあった。

(……参ったな、)

 松下は小さく苦笑する。
 いつも、高速でなら、追い越し車線をぐいぐいと飛ばしていく自分が、無意識のうちに制限速度を守って走っていることに、今更気がついた。

(帰したくなくなる)

 勿論、それをする気はない。眠る早智子を横目で見ながら、松下はまた、小さく微笑する。

(食べてしまうよ、と、)
(言っておかないといけないな)

 けれど今はただ、走るだけ。
 夜の道に、ライトが光って、美しかった。



20090721
長い……長すぎます。
びっくりするほど長いです。
すいません。
さて…、進展しちゃいました。照れちゃうのであまり語りません。
またよろしくです。




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あきゅろす。
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