大学生と講師のシリーズ
いつかを待つパートナー(4年7月) 1
五日目のテストで美加に会った。最初の三十分が過ぎ、退室可能を知らせる鐘が鳴る。早智子はすぐに席を立った。
もういくつかがたがたと椅子の音がする。前の机に解答用紙を提出し終えると、早智子は早々に部屋を出た。
足音が追いかけてきたのは、すぐのことだった。ぽんと肩に手が置かれると同時に声が投げられた。
「早智子、今日暇?」
そう尋ねられた早智子は、教室にある時計を見上げてから美加に答える。
「んー、何か用事? バイトまでは暇」
バイトまでの時間調整に松下の研究室にいることの多い時間帯だった。けれどテスト期間中は入室できない。特に用事があるわけでも、今更テストのための勉強あくせくする気もない早智子は、そんな風に答えた。
「じゃー街中まで送る。ちょっと話したいだけ」
美加の言葉に早智子は軽く首を傾げる。まあいいじゃん、と美加は早智子を促して駐車場へと歩き出した。
美加は大学にマイカー通学している。早智子は話は聞いていたし、実際に彼女が運転しているのを見かけはしていたが、乗るのは初めてだった。
学生駐車場は教職員のものより少し遠い。当たり障りのないテストの話をしながら道程を歩く。何となくそわそわした美加に気付いてはいたが、早智子はそれには敢えて触れず、共に歩いた。
(……何だろう)
考えているうちに、駐車場への短い散歩は終わる。美加がちゃりちゃりとジーンズのポケットから引っ張り出した鍵を操作すると、シンプルそのものの白い軽自動車の両のウィンカーが点滅した。
「乗って。ちょっと、煙草臭いけど」
「うん、あれ、煙草吸ったっけ?」
ドアを開けると、確かに煙草の匂いがした。助手席でシートベルトをはめると、美加が車のエンジンをかけた。
「私は時々なんだけどね」
「――ふぅん?」
早智子は小さく笑んで、それ以上の言葉を紡がなかった。
(いるんだ、彼氏が)
(煙草吸う人なんだね)
美加がそんな言葉を期待しているかもしれない、と早智子が思ったのとほぼ同時に、どん、と体に感じられるほどの大音響で音楽が鳴る。慌てて美加が音量をさげた。
「ごめん」
「うん、びっくりした」
「早智子は? 車で音楽とか聴かないの?」
「あー、私免許もないし」
早智子はそれを、後期の授業料の支払いが終わってから考えるつもりだった。車がゆっくりとスタートし、美加はまた早智子の方を伺うようにして、話し出した。
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