企画小説
銀の少年
「あ、また泣いてる」
揶揄うように僕は言う。すると、拗ねたような目をしてミィが微かに笑った。涙はまだそこにあったけれど、確かに。僕はほっとして笑った。
「またってひどいよ、セイちゃん」
差し出すハンカチを受け取りながら、ミィが呟く。
「だっていつも泣いてるじゃないか」
「……そうかな、そうかも、ね」
迷ったようなミィの科白に僕はくくくと笑った。
ミィと出会ったのは三か月位前。
僕が初めて目にした、人間の涙は彼女のものだった。
泣き止んだ彼女からハンカチを受け取る。その手には、肌には、触れないように細心の注意を払って。
僕のてのひらはつめたいから。
僕は、4か月前にできあがったばかりの「人間に似た何か」だったから。
ミィがあまり幸せではない恋をしていることには気付いてた。
何故、と問うたこともある。もっと優しいひとを、もっと幸せな恋を求めないの、と。
彼女は淋しそうに笑んで小さく言った。
「……そのときは、あたたかいから」
僕はそっと自分のてのひらを見た。人間と寸分違わぬやわらかさ。肌の色。
――けれど体温のない、てのひらを。
「あたたかい?」
その言葉に、泣き出しそうになる。
「……あたたかいのは、しあわせ?」
「とりあえずの淋しさだけ……だけどね、忘れられるのは」
「それなら、」
「でも、何もないより、ずっといいから」
そう言って、俯くきみに、僕ができることはない。
目の前が揺れた。
僕には涙なんて、ないのに。
「……そっか……」
僕はただ、そう、答えた。
僕のてのひらはつめたい。
きみをあたためることはできない。
きみを好きだと、囁くことは簡単なのに。
やさしく、きっとやさしく、恋をするのに。
けれど、僕には、
あたたかさだけが、ないんだ。
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