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企画小説
裏切りの攻防戦 1

 ファストフードの狭い四人席。
 蒸し暑かった外の空気から、しばらくの間解放された四人は、みな一様にほっとした顔をし、それぞれの飲み物に口をつける。
 どちらの二人組も、女性が右側に座り、自然と、向かい合うのは男と女になった。
 恵の隣は、大輔。大輔の向かいは芳子。その隣が、優祐。

「このあとは? まだ四人で一緒?」

 隣で大輔がそう投げかける。なんとなく頷いて三人が同意を示した。大輔の手が、恵の左手に触れてくる。恵は、べたべたするのは嫌いだ。知っているはずなのにそれをする大輔に、恵は心の中で嘆息する。すると、まるでそれを見ていたかのようなタイミングで、恵の足にこつん、と小さく何かがあたった。
 向かい側の優祐の足だった。その、やわらかな蹴りに、恵はミュールを静かに脱いで、迷彩柄の七分丈のパンツから出ている優祐の素肌にその足の指で触れることで応えた。
 互いに隣の相手に気付かれないように、絡めた視線は一瞬。
 優祐の視線がひどく物欲しそうに見えることに、恵は満足してその足をひいた。


 大輔は恵の左手に触れる。
 二人きりの時なら黙ってその手をはらう癖に、芳子と優祐と四人で出かけた時だけ、恵はそれをしない。
 わかりやすいんだよ、と大輔は心の中でひとりごちる。わざわざ伝えてやる気はないし、楽に別れてやるつもりもない。ましてや優祐に譲る気などさらさらない。
 優祐の、恵を見る目があまりに物欲しそうにぎらつくことに、大輔は強い苛立ちと、裏返しの優越感とを同時に覚える。
 だからわざと目の前で、恵に触れる。

「ねえ。好きな人に好きっていえる?」

 芳子が、唐突に訊いた。
 優祐の肩がひくんと揺れたのを、大輔は見逃さない。
 それくらいでびびってんじゃねえよ、と、大輔は内心で馬鹿にしながら微笑む。
 わかりやすいヤツラ。
 気づかれていないと思っているらしい優祐と恵を二人並べて馬鹿にして、心の中で嘲笑うと、ほんの少し気が晴れる。
 それはひどく暗いよろこびだった。


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