World Maker
戦場の華 T
出会いは、戦場だった。
そこに、彼女はいた。
真紅の液体にまみれて。
茶色いだけの荒野に、きれいな花が咲いていた。
黒く沈んだ土が、血で染められているのだということはすぐにわかった。
いまよりもっと子供のころに戦争がはじまって。
戦火に親を奪われてから、こんな死体は何度も何度も目にしているから、別にどうってことなかったはずなのに。
それは、違った。
次元が違った。
それが死体だなんて、思えなかった。
顔色は真っ白で、どこまで近づいたってぴくりとも動かないし瞳は固く閉じられていたけれど。
全身血まみれで、死体を見慣れたおれにはそれが明らかに致死量だなんて一発で分かったけれど。
それが死体だなんて、欠片たりとも思わなかった。
だって、―――彼女は、美しすぎた。
血にまみれながら。
砂と泥と汗と、血に汚れながら。
そんなもの、まったくどうでもよくなるくらいに。
真紅の髪をした彼女は、戦場にあって、死体に埋もれて、それでも死体だとは信じられないほどに、 ………美しすぎたのだ。
おれみたいなガキを一目で魅了するほどに。あまりに。
その人が死んでいるなんてとても思えなかったから。
おれは彼女を連れて帰って手当てした。
本意ではないが、鎧をとって、服を脱がして血を拭いた。
磨けば磨くほどに。
彼女はきれいだった。
きれいすぎて―――欲情なんてしようがなかった。
目が覚めた彼女の瞳もまた、宝石のようにきれいに澄んだ紅色だった。
殺されかけたのには驚いたけれどそれでも見捨てる気にはなれなかった。
彼女が敵国の将軍だとは聞いたけれどそれでも見放す気にはなれなかった。
父や母を殺したのは自分だとも言われたけれどそんなの見切る理由になんてなりようがなかった。
美しさに惹かれたのだ。
ただそれだけに魅了された。
短い人生の中で、彼女ほど美しく気高いものにあったことはなく。
またこれから先二度と会うこともないだろうと確信していた。
父は死んだ。母も死んだ。
兄弟も親類もいない。
おれにはなにもない。
持っているものがないのならまた失うものもなにひとつとしてないのだ。
ならばいいじゃないか。
美しいものにこの身を捧げたって。
美しい彼女に、この身すべてを捧げたって。
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