World Maker
鳥籠
血が滲むほど唇を噛んでも、爪が食い込むほど拳を握っても、涙を抑えることはできなかった。
吐き気がした。
厭らしく笑う目の前の男にも。目をそらして黙りこむことしかできない自分にも。
もっと。
もっと自分が強かったら、少しでも闘う力を持っていたら。
こんな、こんな屈辱を、受けなくてもよかったのだろうか。
自分が、あの騎士のように戦う力を持っていたら。
自分は、この男を明確に拒絶することができたのだろうか。
その夢想はあまりに甘美で魅了的で。
そのため歌姫は泣きそうになった。
それはきっとかなえられない夢だ。
形をもたない幻想だ。
追えば追うほどに現実を突きつけられ。己の無力を実感して。
涙が、こぼれそうで。
あふれる寸前の涙を掬いとられた。
その手を思い切りはたいてやりたかった。
そんなことすらできない自分に絶望した。
(踏み出せない一歩。必要なのは、闘うための力ではなく闘うという意志なのに)
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