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World Maker
祈りと剣と

 まるで、祈ることが罰であるかのように、彼女は涙を流しながら祈った。
 それは、決して祈ること自体に対する苦しみではなく。

 祈ることしかできない己に対する苦悩だった。

 彼女が誰よりも信頼する騎士が、明日、戦場へと旅立つ。
 それは初めてのことではなかったけれど、何度経験しても慣れぬことだった。
 己の騎士の、その強さは知っている。
 百の敵に囲まれたとて、おめおめと殺されるような人間ではない。
 戦って勝ちとった生を誇らしげな笑みに乗せて、きっと騎士は無事に帰ってくるだろう。
 疑いをはさむ余地もないその事実は、けれど彼女に安堵を与えはしない。

 信じている。
 信じてはいるが、それでも。

 その信頼は、胸の内、かすかに宿る不安の残り火を消し止めはしなかった。

 だから、彼女は祈った。

 己の騎士の無事を願って、祈った。
 無力な己を呪いながら。
 無垢な涙を流しながら。

 祈りながら、彼女の名にふさわしく、歌った。

 騎士が世界で一番好きだといったその声で。
 その心には、不安や心配や苦悩なんかの、さまざまな感情が渦巻いていたけれど。

 その歌声はどこまでも澄んで。
 人々の心を洗い流すかのような清らかさで、夜の静寂を揺らして広がり。

 果てに、彼女の騎士の元へと、確かに届いた。

「……さすが歌姫様。美しい声だ」

 己の得物を丹念に手入れしていた騎士は、ふと手を止め、おそらくは騎士の大切な歌姫も見上げているであろう真っ白な月へと目をやり。

「そんなに心配しなくてもいいのにねぇ」

 小さくひとりごちると、苦笑しながら剣を置いて、自らの寝台へと潜り込んだ。

 明日の朝はいつもより早い。
 夜明け前の出立よりも早く、心配性の歌姫の元を訪れることを心に決め、騎士は月と闇夜と、そして何より己とに捧げられた祈りを子守唄に、穏やかな眠りに就いた。


(騎士と歌姫の日常。祈ることしかできない自分が悔しくて、なのにそれ以上の行動を起こそうとはしなかった)










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あきゅろす。
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