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World Maker
たとえこの命を刈り取られたとしても、


ようやく、どうにか起き上がれるほどにまで回復した身体を持ちあげ、壁に穴を空けただけの窓に張り付けられたぼろ布を、持ち上げる。
久しく見なかった輝き、注いだ月光すら眩しく、眼を細めた。

「ねえちゃん…?起きたの?」

土の上に直に寝ていた少年が起きていたのには知っていた。
かといって振り返るでもなく、白い月を見上げる。
大地にどれだけの血が流れようとも、白く輝くその光を。

「身体、痛むの…?」
「いいや…」

次の言葉を紡ぐのに。その話をするのに。
いったいどんな心境の変化があったのか。
自分にも把握はできなかった。
ただ。

「夢を、見たんだ…」

ただ、すこしだけ彼の反応を見てみたいと思った。

「どんな、夢だったの…?」

薄々その内容を察しているような声音だった。
事実少年はぴりぴりと肌をさすような緊張をはらんだ空気からそれを察していて、その事実に彼女もまた気づいていた。

「人を殺す夢だ」

振り返った死神と、少年の眼が合う。
まっすぐに。
恐れることなく、怖気づくこともなく。

ただまっすぐに。

「うん」

先を促すような相槌だと思った。
すべてを受け止めようとするような眼だとも。
同時に、意図しなかった言葉は、するりと零れ落ちた。

「私は人殺しで、殺戮者だ」
「うん…」
「剣を握る手のひらは真っ赤で、家も燃えていて、真昼なのに空までも赤く見えた」
「うん」
「世界中が紅く見えた。それが私のはじめての戦場だった」
「うん」
「…だから…だから、私は…この髪と、眼の色が…嫌いだ」

赤い髪に紅い眼。
それらはいつも、彼女に戦場を思い出させる。
流れる血を。燃える炎を。炙られた空を。
血まみれの手のひらを。
克明に彼女へと突きつける。

おまえはヒトゴロシなのだと。

忘れたことなど一度もなかった。
それでも執拗に、その事実は突きつけられているようで。
まるでそれ自体が彼女の罪の証だとでも言わんばかりに突きつけられて。

だから彼女は嫌いだった。

血濡れたような髪も眼も。死神と呼ばれることも。
なのに。

「でも…おれは好きだよ」

なのに少年は、小さくつぶやいた。

はじめてではない。

年端もいかぬ、まだ少年でしかない彼に、驚かされることは。
軽く目を見開いた死神に、少年は、すこしだけ困ったように、それでも笑いかけた。
こんなときにどんな顔をすればいいかなんてわからなかった。
そんな状況の表情のストックなど、二桁にギリギリ達しただけの人生のなかでは得られなかったから。

だから笑った。

「おれは、ねえちゃんの髪も眼も、好きだよ。…だって…とっても綺麗だ」

 
(そんな話を聞いてもまだ、月光に照らされた彼女をただ美しいと思う)











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あきゅろす。
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