World Maker
剣士のゼンシン
「ここ、いい?」
「ん、ああ、いいよ」
黙々とかなり偏ったメニューを処理していた少女は、声をかけてきたのが孤児院からの数少ない友人だと気付き、かすかに笑いながらうなずいた。
「いよいよ軍属ね」
「うん、…まさか卒業が早まるとは思わなかったけどね」
「それだけ戦局が微妙ってことでしょう」
「…そうなの?」
「そうなの」
友達がそれほど多いとはいえない友人が、なぜかいつも噂話にだけは通じていることを不思議に思いながらも、少女はあくまで“そういう話”レベルにしかとらえていなかった。
その話が異様な精度を誇ることには気づいていたけれど。
「配属希望はもう出したんでしょう?」
「うん…まあ、」
「やっぱり、あの人のとこ?」
「うん…通るかは分かんないけど…」
「だいたいそんなもんよ、そういう書類って。形式的なものだと思っておいたほうがいいんじゃない?」
「…やっぱり?」
「やっぱり」
パンを咀嚼しながら眉を下げれば、優雅にスープをスプーンですくっていた友人は、得意げでもなくあたりまえのようにうなずいた。
少女は彼女の素性を知らない。
挙措が時たま平民離れしているから、もしかしたらいいとこのお嬢様なのかもしれないが、そういう話をしたことも聞いたこともなかったが、なんとなく何かがあったんだろう程度にはその素性を察していた。
だからおそらく、友人は自分に関してもっとおおくのことを知っているであろうことも。
「あなたも物好きよね」
「…なにが?」
「あの死神の部隊に配属されたいなんて…まあ、最近じゃ生きて帰れるからって、志望者多いみたいだけど」
「…そんな、…そんな不純な動機じゃないよ…」
ただ役に立ちたいのだ。力になりたいのだ。
盾でも剣でもいい。
彼女を護る盾になりたい。彼女の振るう剣になりたい。
いつか――彼女に、救われたように。
ただその恩返しがしたい。
配属希望届を出したのも…ひいては軍隊への入隊を決意したのも。
すべてはそのためだった。
そのためだけだった。
「一途というか頑固というか…ばか?」
友人は、その意志を確認するたびに同じようにためいきをつくが、少女はただ苦笑を返すだけだった。
反論もしない。
知っているのだ。少女も。
呆れたように肩をすくめる友人が、同じ思いを抱いているからこそ、形は違えど軍隊に志願したのだということを。
「まあ、…がんばってね。………死なないように」
ぽつりと告げられたのが、素直じゃない友人の本音。
だから少女も、そっと微笑みながら、言葉を返す。
「うん…がんばるよ。死なないように」
(恩返し、なんて。戦場に立つ動機としては充分不純だと思うけど)
………前身?善心?それとも前進?
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