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あの時、私は殺られも、犯られもしなかった。


また死ねなかったと悔やむべきなのか、また命を拾ったと喜ぶべきなのか分からない。


ただ、目が覚めた隣に彼の温もりが残っていなかったことが酷く悲しかった。


もう昼頃だろうか。バナナ鰐の水槽には光が差し込んでいる。



「お腹、すいた」



食欲なんてないのに、体は水分と食べ物を欲していた。ベッドから起き上がるのが面倒だったが、とにかく口渇には堪えられなかった。


不意に彼はいつもこんな口渇感を味わっているのだろうかと疑問に思った。私や普通の人間ならば、コップ一杯の水を飲めば潤いを感じることができる。しかし、彼はクロコダイルさんは一生潤うことがないのではないだろうか。


渇きに支配された体。飲んでも飲んでも潤いを感じることができない。


想像しただけで恐ろしい。そんな人間が心までも渇いてしまうのは仕方がないのだろう。


でも、クロコダイルさんは、心まで渇いてしまっていない。そんな気がする。


だって彼は……。



「やっと、起きてきたか」



執務室に繋がる扉を開ければ彼が呆れたように息を吐きながら私に目を向けた。



「ごめんなさい……」


「フン、今食事を用意させる」


「え」


「何だ、腹減ってねぇのか」


「いや、すごく空いてますけど」


「だったら、さっさと顔洗って来い」


「あ、はい!」



うわっ、寝癖で頭ぼさぼさだよ。急に恥ずかしくなって洗面所に駆け込んだ。


ほら、彼は優しい。こんなに優しい彼の心が渇いているはずがない。


たとえ平和な国をのっとろうとしていても。



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あきゅろす。
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