14
予想外の寄り道をしてしまったため、私は疾風となりて馳せる。
「あ、見つけた」
ふわっと体を止めて、スパイダーズカフェの前に降り立つ。あぁ、本当に能力持ってて良かった。こんなとこまで徒歩だったら最悪だよ。
「あら、いらっしゃい」
店に入れば良い感じのクラシックが流れていた。
「……」
カウンターに座り、ぐるりと店内を見渡す。客はいない。ナンバーエージェント専用って感じか。私が、ここにきた時点でバロックワークス関係者だって気付いてるかな?社員のつもりはないけど。
「何にします?」
「……紅茶を」
最近クロコダイルに付き合って紅茶ばかり飲んでるから、紅茶好きみたいになってしまった。
「ポーラさん」
置かれた紅茶の脇に手紙を差し出す。
「社長からです」
ポーラの纏う雰囲気が一瞬変わった。それは鋭いものに。ゆったりとした動作で手紙の封を切った。
「あ、美味しい」
紅茶は甘く、私好みの味だった。私がいれるより遥かに美味しい。クロコダイルは、よく文句も言わずに飲んでくれているなと感心した。
「了解、とボスに伝えて下さる?」
「はい、分かりました」
どんな内容だったのだろうと気になったが、あえて聞かないでおいた。きっと聞かなければ良かったと思うような内容だから。
「それにしても、あなた初めて見る顔ね」
「ども、初めまして。素性は企業秘密だと社長に言われているので、風と呼んで下さい」
「風……ちゃん、ね。分かったわ」
「すいません、おかわり下さい」
「あら、気に入った?」
「はい、どうやったら美味くいれられるんですか?」
「フフフ、それは企業秘密よ」
あら残念。精進あるのみってか。三杯飲み終えた頃、日も沈みかけてきたので帰ることにした。
「ごちそうさまでした」
「あなたは、ボスの素性を知っているのかしら?」
「……まぁ、一応」
「そう、また来てね。今度は美味しいケーキも付けるわ」
「楽しみにしてます」
また、ここに来れる機会があれば。風になれば、あっという間に小さくなるスパイダーズカフェ。なんだか早くクロコダイルに会いたくて仕方なくなった。
数時間でホームシック。これは軟禁されてた方が良いかもしれない。
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