09
ぷかぷかと浮いている感じが、まるで空中散歩をしているみたい。そういえば、最近してないなと思う。前は日課だったのに。
皆、元気かな。マルコ、怒ってないかな。怒ってるよね。怒り過ぎて禿げちゃったらやだな。
レッドは変わらず煙草ふかしてるんだろうな。私がいないとまた本数増えてるよ。
イエローは……まぁ、元気だろう。グリーンは相変わらずの腹黒さで新入りたち苛めてるだろーな。
うん、みんな元気に違いない。別に私がいなくったって、もともと回っていく世界なんだから。
目を閉じていたが、不意に陰った気がして、ゆっくりと瞼を上げれば驚愕して、溺れそうになった。
「……ッ、ぷはっ。く、クロコダイルさん何してんですかっ!?」
覗きにしては堂々すぎですよっ。
「……」
「え、え?え、えっと……」
無言で見下ろされてるのが、いたたまれなくなってきて、足を抱えるように縮こまる。
「あ、あの……」
「出ろ」
「え」
「聞こえねーのか」
「あ、はいっ、すみません!」
ざばぁと音をたてながら立ち上がれば、くらりと視界が歪んだ。あ、やばい。
これはダメだ。浴槽の縁に打ち付けると覚悟をし目をつぶれば、ふわりと砂の匂いに包まれた。
嘘、そんなわけない。過った期待を否定しながら目を開ければ、嘘みたいな真実があった。ダメ、ダメだよ。
クロコダイルに支えられた体を押し離す。拒絶なんかじゃない、嫌なはずない、彼は水がダメだから、そう思ってとった行動は彼には、ただの拒絶でしかなかった。
「チッ」
「あ、ごめんなさ……」
「出ていけ」
「……ッ」
「使えねぇ奴は、いらねぇ」
あー、ダメだったよ、ななちゃん。私には愛は手に入れられない。私は愛に触れられない。
「ごめんなさい」
浴槽が出て擦れ違い様に囁いた声は届いたかな?全身から滴る雫で頬を伝うのが涙だって、気付かれなかったかな?
一ヶ月、たった一ヶ月、やっと一ヶ月、頑張ったよね。私、頑張ったよね?帰ろう。もう、帰ろう。ここは私の居場所じゃないんだ。
ひたひたと足を鳴らしながら部屋を横切る。ドアノブを握りしめた瞬間、声が聞こえた気がした。
また逃げるの?
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