05
ほら来た。やっぱり。政府関係者は入店できないが海賊には特に、そういったものがない。
むしろ金を落としていってくれる良い客だ。何も起こらなければ、ね。
「副支店長」
「か、風さん!」
「取り合えず、支店長に報告を」
「そ、そうですね。分かりました」
慌てすぎて、ずっこけながら向かう副支店長の背中は頼りなさすぎた。
「風さん」
「ん?」
でかいガードマンたちが、客に聞かれないようこっそり耳打ちする。
「あちらの海賊が、いかさまを始めまして……」
「ふーん、損失額はどのくらいになりそう?」
「それが、手慣れた手付きで、あっと言う間に一千万……」
「はぁ?」
一千万?やばいやばいやばい。クロコダイルに殺される。
「どこ?」
「カードエリアです」
「風で全部吹っ飛ばしてやる」
ガードマンが、それはちょっとと思っていたのなんて知らず、足早にカードエリアへと向かった。
「あいつか」
ディーラーが半泣きじゃないか。
「微風(そよかぜ)」
囁きとともにカードエリアのカードが舞った。
「きゃあ!」
「うわっ!」
「なんだ!?」
「あー!!」
客たちが騒ぎ始めたのに紛れて、いかさま野郎の襟首を掴み姿を消した。
男が消えたことに誰も気付かず、ディーラーだけが滴る汗を拭い安堵の息を吐いた。
「ちょっと、あんた。うちの店で、いかさまするなんて良い度胸してるね」
場所はレインディナーズ裏口。人気なんてあるはずがない。
「は?何のことだよ」
「しらをきる気?」
男は口角を上げた。
「証拠は?俺がいかさましてたって証拠はどこにある?」
「そう、残念だね。今の私は珍しく機嫌が良くない」
壁に押し付けていた男から手を離し、距離を取る。
「さようなら」
裂け、風花(かざはな)。
「ぐはっ」
男の体に無数の傷が刻まれ血が噴き出した。
それは、まるで真っ赤な彼岸花。
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