03
こうして始まる一日。大して仕事はない。取り合えずクロコダイルさんに挨拶だ。
執務室の扉を叩き「失礼しまーす」と呟きながら中に入る。
彼は私と同じく朝が苦手らしい。私も結構、機嫌の悪い方だがクロコダイルに比べたら可愛いもんだと思う。
機嫌が悪すぎて怖すぎて寿命が縮まるから余計なことは言わず朝の挨拶をするだけ。
「おはようございます」
社長椅子に座りながら葉巻をくわえるその姿。それ事態はいつもと何ら変わりはないが、寝起きというわけでラフな格好ではある。
開いた胸元に、いつも胸がザワザワして心臓に悪い。
バナナワニを見つめ思考停止中のその横顔も、ぐっとくる。
こんなこと言ったら身体中の水分奪われてしまうこと間違いないだろう。
挨拶の返事は返ってこない。いつものことだ。そのままふかふかのソファーに寝転がる私にも何も言わない。
そろそろ私に対する興味がなくなってきたのだろう。
そろそろ捨てられちゃうのだろう。
だって一ヶ月経った。品定めの良い区切り時だ。
「おい」
「……」
でた。お得意の「おい」。何となく聞きたくなくて寝た振りを決め込む。
すると砂の渇いた匂いが鼻腔を擽った。
あぁ、すぐそばに彼がいる。
「おい」
「……」
「寝た振りとは良い度胸だなぁ」
「あ、バレました?」
「バレねぇと思ったのか」
呆れた顔で煙を吐き出すクロコダイル。初めて見た表情に胸が高鳴る。
いつも通り、きっちりした格好の彼に仕事の時間かと体を起こす。
「……ッ」
一瞬ふらついた体。くらりとした頭を押さえて片手で体を支える。
「……」
色のない彼の瞳が私を見下ろしている。
「あ、すみません。今日はカジノの方の手伝いを頼まれたので……失礼します」
あの瞳から逃れたくて、執務室から飛び出した。
「……ッ」
彼の瞳に、ぞっとした。背筋から駆け巡る悪寒。自身を掻き抱き扉に背を預けたまま、ずるずると蹲った。
「怖いよ……ッ」
あなたに捨てられてしまう未来が見えた気がした。
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