08
緊張した面持ちの店長。その隣で心底運が悪いと溜め息を溢している私。
居心地の良い飲み屋が海賊達に占拠されている。先週に続き何だか海賊がよく来るなーと呑気に構えていれば絡まれた。
「おい、嬢ちゃん」
ビールジョッキ片手にカウンターに座る男。店長ビビりすぎですよ。
「どうしましたかー?」
「腹減ったんだけどよー。つまみじゃなくて何かねーか?」
「あー、だったら店長のナポリタン最高っすよ」
「へー、って嬢ちゃんが作んじゃねーのかよ?」
「え、私、殺人料理しかできませんよ」
一瞬きょとん、とした男はカウンターをバンバン叩きながら爆笑しだした。
「店長、ナポリ一つ」
「え、あ、わ、分かった!」
「ガハハハハッ。嬢ちゃん、それじゃあ嫁にいけねーぞ」
「結婚願望皆無なんで」
「ガハハハハッ。海賊を目の前に随分肝っ玉据わってんなー!」
「それ、褒めてます?」
空になったジョッキを下げ、並々注いだジョッキを渡す。
男の笑い声に釣られて何人かの仲間が寄ってきた。
「おい、随分楽しそーじゃんか」
「おー、この嬢ちゃん、良い女だぜ。酒場の娘にしとくのは勿体ねぇ」
あ、今のはちょっと嬉しい。
「皆さんもナポリタン食べます?あ、炒飯もイケますよ」
何だか食欲を触発されたらしく気が付いたら……。
「店長、ナポリタン20。炒飯15」
「え、」
「材料足ります?」
「明日の分も使えばなんとか……」
「じゃっ、接客と酒は任せてください」
いやー、海賊さんたち。今日は稼がせて頂きますよ。無銭飲食なんてしたら王宮まで飛ばしてあげますから。
気の良い海賊たちに久々に開放的になった気がした。
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