04
「first nameちゃん。あちらに、この皿お出しして」
「うぃーす」
「言葉使い」
「げ、すみません」
もう何度目か数えきれない程の言葉使いの注意を受けて、口を尖らせながらナポリタンを二皿運ぶ。
「お待たせさせましたー」
「お、first nameちゃん。またザックに怒られてたなー」
「だって店長しつこいんですもーん。直んないもんは直んないのにー」
「いやー、最初の頃に比べれば全然ましだよなー」
常連のオジサン二人と世間話。すると他のテーブルからも声が飛んでくる。
「そうそう、first nameちゃんに初めて酒出された時、まじでビビったもんなっ」
「えー、それはロクさんがチキン過ぎ」
ちょっと若めのお兄さんに、そう言えば店内、大爆笑。
「first nameちゃん、喋ってないで仕事してくれ」
「うぃー、じゃなかった。はぁーい」
わざとワントーン高めに言えば、また沸き上がる。
嵐の夜、この酒場の店主ザックに拾われ早一ヶ月。手配書に映る自分の顔がバンダナで分からなくなっていて良かったと心底思った。
この店の二階に住まわせて頂き、また働かせてもらっている。
運が良かった。嵐の中、船を飛び出しアラバスタに着くなんて果てしなく不可能に近いと思ったのに、風の能力で難なく着くこともできた。
空を見て思う。皆、今ごろどうしてるのか、と。
「first nameちゃん、調味料切れそうなんだけど買い出し頼めるかい?」
「はい、大丈夫ですよ」
メモを受け取り、お店の財布を持って出掛ける準備をする。
エプロンを外していると声を掛けられる。さっきの若めのお兄さん、ロクさんだ。
「あれ?first nameちゃん出ちゃうの?」
「はい、ちょっと行ってきます」
「ロクー、残念だったなぁ。今日こそはっ、て意気込んでたのによー」
ニヤニヤしているオジサンさんたちに顔を真っ赤にして慌てるロクさん。あははっ、と笑いつつも内心反吐が出そうだった。
「店長、それでは行ってきますね」
「あ、first nameちゃん。ちょっと待って」
客を背に、こっそり渡されたのはナイフ。
「店長?」
「最近、海賊とか反乱軍とか物騒だからね。気を付けて」
「……ありがとうございます」
ナイフを腰のベルトに差し込み裏口から店を出た。
店長には感謝してる。衣食住養ってくれてるし、深く色々聞いてこないし、でもそろそろ限界かも。
私は、こんなとこで平和に暮らすために船を出たんじゃない。私は、彼に会いにきたんだ。
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