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05



焦げ付いた臭いが鼻に付く。幸い人間の肉が焼ける独特な臭いが混じっていないことに安堵する。



「おれの首を取りてぇってのはどいつだ?望み通りおれが相手してやろう」



白ひげの背後から私は見下ろしていた。ジンベエさんが倒れている。脳裏に過ったのは優しく笑うジンベエさんの顔。


水掻きの付いた手で私の頭を撫でてくれたんだ。


ぎりり、と締まる拳に腹の底から何かが込み上げてくる。


あぁ、私はこの感情を知っている。


怒りだ。



「first name、落ち着け。親父が行くって言ってんだろ」



今にも飛び出しそうな程、前屈みになっていた私の肩を掴み制止したのはサッチ。


地上に降り立った白ひげ。大きいのは知っているが、何だか今日は一段と白ひげが大きく見える。


クルーたち何人かも降りていきジンベエさんの救出へと向かった。私は、その場で粋がる少年を真っ直ぐ見つめていた。


怒りは収まった。今は違う感情が心を支配している。


瞼を閉じれば鮮明に浮かぶ1ページ。


睫毛の縁が、じんわりと湿ってくる。


死なせたくない。


心が叫んだ。


対峙し合う二人を私は死なせたくないらしい。



「おれが逃げねぇ!!」



視界一面に広がる炎が少年の熱い心を映し出しているように見えた。



「おれの息子になれ!」



大きい。大き過ぎるよ白ひげ。


強すぎるよ。心が強すぎるよ二人とも。



「私は弱い」



瞳からポロリと落ちた一滴とともに漏れた弱音。



「馬鹿、知ってる」



ぐしゃぐしゃっと頭を撫でてきたサッチ。バンダナを下げて私は顔を隠した。


サッチ、そんなあなたさえ私は守れないかもしれない。


それなのに、私なんかと比べものにならない程、強くて大きい二人を死なせたくないとか心の底から思ってしまう私は、本当に滑稽だ。



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あきゅろす。
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