賢者の石 09 「レイ、お願いダンブルドア校長のところまで飛んで」 「First name…」 沈みかけた橙色の日差しが木目調の床を染める。 人型になった彼は私と対峙していた。 私の頭上の壁に片手を付き、もう片方の手で掬うように私の漆黒の髪に触れると、そのまま耳に掛けピアスを撫でた。 「何かあったら…」 「大丈夫」 レイの言葉を遮って即答する。 大丈夫。 だって私は第一巻の結末を知っている。 11才の姿をしている私と比べると遥かに背が高く見下していた彼が腰を屈め、次第に顔が近付いてきた。 避けられれば避けられたかもしれない、でも私は避けられなかった。 震える唇に彼のそれが触れた。 瞬間、彼は黒翼を生やし、ほとんど沈んだ太陽に向かって飛び去った。 「…………ッ」 翼を羽ばたかせ完全なる鷹の姿になった彼の背を見えなくなるまで見続けた。 「レイ」 初めてのそれは、すごく暖かくて愛を感じた。 腰が抜け、その場に崩れ落ちた私は両膝を抱えて顔を埋めた。 誰もいないのに誰にも見られたくなくて…。 悲しみでもなく、憎しみでもなく、怒りでもなく………喜びで泣いたのも初めてだった。 闇でも光でも、私がどちらにいても傍にいてくれると言ってくれた彼を信じ、私は取り合えず彼らに関わってみよう。 せっかく、この世界に来たのだから彼らの生き様を見届けようではないか。 それからでも良いと思う。 その時、その瞬間に自分がいたい方にいよう。 どちらも選べない時は静かに傍観しようじゃないか。 いつだって彼は私の傍にいてくれるはずだから。 私は血に染まった杖を握り締め部屋を後にした。 既に日は沈み闇が世界を支配している。 ←→ [戻る] |