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落乱掌編
独白:鉢屋三郎 ※死ネタ
 出会った頃は覚束ないながらも歩くことのできた女は、痩せぎすだった昔から更に肉をなくし、今や起き上がることさえかなわない。

 私がこの女と縁を結んだのは、仕事のためだった。閉鎖的なこの村で桂男として盤石な地位を得るには婚姻が一番だったのだ。病弱で世間知らずなこの女を手中に収めることが。

「いま名乗ってるこの名前はわたしのものではない、お前との婚姻前に名乗っていた姓も偽物だ、顔だって……」

今になって差し迫るこの苦しみはきっと遅効性の罪悪感だ。
だからわたしは馬鹿な真似をしようと、己の偽の顔に触れている。仮面の縁に指をやっている。
 
 しかして、骨ばった女の手に捉えられ、それは失敗に終わった。
驚いてその血の気の無い顔を覗き込む。

「全部知ってたわ」

そう微笑むと女はわたしの腹の辺りになだれ込み、息を引き取った。

 冷え切っていく妻の躯を感じながら、ああ、それでも愛は本物だったのだと、誰にも言えぬままただ流れる涙で名前の頬を濡らした。




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あきゅろす。
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