SS 夏の風物詩 『おー、はじまった』 また、野球かよ。 『夏は、これ見ないとさ』 テレビに釘付けになってるヤツを隣で、見てる。 真剣な視線は、試合の時見せる表情そのもので…。 『…』 テレビの中では、いろんな高校の試合のダイジェストで…。回数は、数えるほどしか見たことのないヤツの試合をぼんやり思い出す。 『やっぱさ…甲子園行きたいな…』 ヤツが小さくつぶやく。 少し前にヤツから聞いた知識しかないが、野球をやってる人間が目指してる場所なのは、良くわかった。 『ま、これは予選なんだけどな』 CMに入ったらしく、こっちを振り向く。 『また、試合見にこいよ。予告ホームラン打つからさ』 そういうとヤツは無邪気に笑う。 「気が向いたらな…。ほら、始まったぞ」 『おっ』 また、テレビを見つめる。軽く指に触れたのも気付いてないらしい。 …ほんと野球バカ… と、オレが笑った瞬間に手を重ねられる。 『な、もし、オレが甲子園行ったら、応援来てくれる?』 「だから、気が向いたらな…」 オレが視線をテレビに移した瞬間、選手がホームランを打つ。 空に吸い込まれるように、飛んでいくボール。 『オレ、絶対お前のためにホームラン打つからさ…』 そういって笑うヤツ。 期待しないで、待っててやるよ…。 毎年、こうやってヤツの夢を聞いてやるのも悪くない。 夏の風物詩…ってやつ?(笑) [前へ][次へ] [戻る] |