スク
嗚呼、無常
重傷を負い抵抗できないスクアーロとそれを殺そうとする女の話
「動くな。」
銃を構える音と足音が近づいてくることだけをかろうじて察知した。
数えきれない雑魚を相手して、目的だった使い手の剣士をやっと倒した俺は正直、ボロボロだった。
今なら銃さえあれば…いや果物ナイフでも俺を殺せるだろう。
俺はその近づいてくる音は死の音だと思った。
(情けねぇ…こんなとこで死ぬってのか俺は。)
コツ。
足音が止まる。
壁にもたれ座っていた俺は目線を上げず下を向いたままだったがそこにはヒールを履いた足が見えた。どうやら女のようだ。
「誰?」
発せられた声はやはり女で、よく透る綺麗な声だった。
「……こいつら全員を殺したやつ。」
女の問いに俺は弱々しくも嘲笑って答えた。
「…名前は?」
「自分から名乗ったらどうだぁ?それが礼儀だろ。」
「…立場分かってるの?私は今すぐあんたを殺すこともできるのよ。」
「だからどうしたぁ。」
「!」
殺されそうな時だろうが鮫に喰われそうな時だろうが誇りだけは絶対に捨てない。
それが俺の信念であり全てだ。
そして、その全てを捧げる相手こそ俺の惚れた男。
「たいした度胸ね。」
「…まぁな。」
「名前よ。」
「あ?」
「私の名前。名乗ったでしょ?そっちも答えたら?」
「…言わねぇ。」
少しだけ空気が変わった。
目の前の女…名前がわずかに怒りの色を見せたからだろうか。
「…嫌なやつね。今すぐ殺してやりたい。」
「そうかよ。」
「…………。」
女は黙り、何かを考えているようだった。
俺は今にも意識を飛ばしそうで、唇をきつく噛んだ。
ぐっ!
いきなり銃口で顔を上げられる。俺はあまりの屈辱感に声が出なかった。
「……綺麗な顔。」
「は…?」
やっと垣間見えた女は思ったよりか弱く、思ったより美人だった。
「殺すにはおしいくらいに整った顔ね。」
「はっ…言ってること無茶苦茶じゃねぇか。」
女は空いている方の手で俺の顔に軽く触れた。
前髪を少しよけたり、頬を流れたり、心地よい人の…温もり。
「助けてやろうか?」
「!?」
「見逃してあげようかって言ってるの。」
女は子供に新しい玩具を与えた親のようなくだらない優越感に浸った笑みを見せた。
「くだらねぇ。」
「……?」
「余計なお世話だっつってんだよ。てめぇはさっさと俺を殺せばいいだけだ。そうすりゃ、お前は一気に名声を手に入れられるぜぇ。」
「…余程プライドが高いみたいね。」
「情けねぇ姿晒して生きる方が耐え難いと思うがな。」
女は笑みを一転させ人を殺す眼に変わる。
「あんたさ…いい男だね。惚れるよ、こんな出会い方じゃなかったら。」
「俺はどっちにしても、てめぇに惚れることはないがな。」
「そこは嘘でも俺もだって言うところでしょ。」
「嘘はつかねぇ性分でなぁ。」
「それこそ嘘つきね。」
「はっ。」
名前はまた笑みを浮かべて引き金に指をかけた。
「それじゃあね。誇り高い剣士さん。」
「……泣くくらいなら最初からこんな世界に来んじゃねぇよ。」
俺は呆れた笑みで告げた。名前という女は笑いながら泣いていたからだ。
「……あなた、私の兄とそう変わらないのに……殺さなきゃいけないのが残念だわ。」
「……じゃあ、そいつは大事にすることだな。早く引き金を引け。。」
名前は引き金に指をかけた。
「さよなら。」
嗚呼、無常
「やっぱり綺麗よ。誇り高い剣士…スペルビ・スクアーロ。」
―――――――――――――――『平家物語・敦盛の最期』をテーマにしながら書きました。
まぁ、平敦盛は言わずと知れた美少年で首を取られるってのに名も名乗らず、黙って自分の首取れ!そうすりゃあんた大出世だぜみたいなこと言うのがかっこいいっていうかなんというか…惚れました!(どこがとか言わない)こんな拙い説明じゃあれという方はぜひ平家物語を読んでみては…はい黙ります!
でも久々の更新がこれってどうなんだろう……(´`)
20110814
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