スク
すり抜ける過去の砂
よくあるシチュエーションだった。
学校の卒業式、私は一世一代の覚悟で大好きだったスクアーロに告白した。
「スクアーロが好き。」
「…冗談よせよ。」
「この気持ちに嘘なんかない!」
「…どっちにしても今の俺はその気持ちに答えらんねぇ。悪いなぁ。」
結果は見事に玉砕。
私の長年の恋は簡単に砕け散り、蹴散らされた。
なまじ仲が良かったからかどこか変に自信があった自分が恥ずかしかった。
そうして私の恋はあっさり幕を下ろした。
それから8年ともう少し時が経ち、私はヴァリアーで働いていた。かつて私をフッたスクアーロと同じ職場である。
もちろん最初は嫌で仕方なかったが、時が解決するとは言葉通りで時が経つにつれて私も思考が大人になり、もう未練がましく考えることをもう随分前にやめた。
そんなある日、アジトの廊下でスクアーロに呼び止められた。
「てめぇが好きだ。」
「…なんの冗談?」
「冗談なんかじゃねぇ!俺はお前が好きだ。」
「………昔、私をフッたのにそんなこと言うの?」
「あの時は…っ、自分のことやザンザスのことで頭がいっぱいで…何も受け入れられる状態じゃなかったんだぁ…。」
「…………。」
私は必死な顔をして話すスクアーロに対しため息をついた。
「…私はもう好きじゃない。スクアーロはいくら好きだって私のことを二の次に考えるでしょう?」
そう言ったら、瞳が揺れるのが見えた。きっと私は悲しい目をしてる。
私は何も言わないままスクアーロの横を通り過ぎた。
多分、ヴァリアーに入ったばかりの頃の私なら飛び付いていただろう。
でも今は違う。
人の気持ちは簡単に変わるのだ。
「名前…。」
後ろで名前を呼ばれたが振り返る気はなかった。
スクアーロはいくら誰かを好きになっても幸せにはできないと、この8年を通して思った。
ザンザスを待ち続ける姿は哀しすぎたし他人には理解しえない感情があるのだと感じた。
きっと、そこを誰かに指摘されたら憤慨されるに違いない。
それが例え愛した女性であっても、迷わず切り捨てるくらいに。
私は泣きたくなった。
かつて愛した男はあまりにも遠くなりすぎた。感情を共有することなどできるはずがないと客観的に考えたら余計に苦しくなった。
ああ、私はまだスクアーロが好きだったのか。
そしてそれからまた10年の時が経った。
それまでに色々なことがありすぎて、うまく言うことができない。
この10年、スクアーロの隣には私ではない女性を見かけることがたびたびあった。
私の隣にもスクアーロではない男性が少なからずいた。
だが生憎、長続きせず今はお互いに誰もおらずこの歳を迎えた。
そして不思議なことにスクアーロと酒を飲むようになったのだ。
時間とは恐ろしい。
昔、告白しフラれ、告白されフッた男とだなんて笑い話この上ない。
スクアーロはそんなことを覚えているのだろうか。
「ねぇ、昔話してもいい?」
「ああ?酒がまずくなるような話はごめんだぜぇ。」
若干、その言葉に傷ついたが素知らぬフリをした。
「昔…私スクアーロに告白したでしょ?」
スクアーロのグラスを持つ手が止まる。
「そしてあっさりフラれちゃった。」
「…責めてるつもりかぁ?」
「まさか!同罪じゃない。」
「……………。」
まだスクアーロにとっては消化しきれない過去だったのだろうか。黙り込んでしまった。
「…お互いを好きになる要素があったのに、どうして上手くいかなかったんだろうね。」
「…人っつーもんはそんなもんだろ。」
「哲学者みたいなこと言うのね。」
「そんな話出してどうするつもりなんだぁ?」
スクアーロの目が変わるのが見えた。
「…どうするつもりだと思う?」
スクアーロがグラスをテーブルに置き、その冷たい手で私の頬に触れる。
「期待してたのかぁ?」
「それはスクアーロでしょ。誘ったのはあなたなんだから。」
「もう拒んでも遅ぇぞぉ。」
「そっちこそやっぱりなかったなんて言ったら殺すから。」
「う゛お゛ぉい…随分、物騒だなぁ。」
そう言ってスクアーロは笑いながら私に体重をかける。
これは流されているのか、それとも。
私もスクアーロの首に腕を回す。そして耳元に囁いた。
「私のこと、どう思ってる?」
スクアーロは私の首に赤い華を散らしながら顔を上げた。
「10年前にもう言ったぜぇ。」
私が口元を綻ばせたらスクアーロのそれと重なる。
激しく求め合うのは本能なのか長年の想いなのか。
「私はもっと前に言ったわ。」
すり抜ける過去の砂
‘好き’って。
お題:水葬
20110529
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