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スク
きっと笑ってくれるでしょう









君が笑いかけてくれるというなら、俺はいくらでも待とう。











「それで?また殴られちゃったの?」


「あいつが理不尽なだけなんだぁ!」


「ふふ、それがボスなんだから仕方ないでしょ。」


「こっちはいい迷惑だぜぇ。」


「あら、意外に楽しんでるのかと。」


「んなわけあるかぁ!」


広い部屋の中央に丸いテーブルを挟んで向かい合わせに座り俺たちは何気ない会話をしていた。

名前が笑えば俺も自然と笑みがこぼれる。
2人だけの空間はおだやかな時が流れて何もかもを忘れさせてくれる。


今日、この日だけが神が俺に与える安息の日なのかもしれない。




「そういえば山本くんは元気にしてる?」


「変わんないぜぇ。まだ野球と剣とを中途半端にやってやがる。」

「それが山本くんの生き方なんだから、そろそろ認めてあげれば?」


「あいつのセンスは認めるがまだ甘ちゃんなのは事実。もっと伸びるはずだからなぁ。」


「何だかんだいって気に入ってるみたいね、彼のこと。よかった。」


「そういうわけじゃねぇよ。」


「照れちゃって。」


「照れてねぇ!」


名前はまた微笑む。
そして、その目をゆっくりと細めた。


「……スクアーロ。」


「…何だぁ?」


「安心したわ、元気みたいで。」

「年寄りくせぇこと言うんじゃねぇよ。」


「笑うようにもなったわ。私、すごく嬉しい。」


「名前…。」


「きっと今の生活もそんなに悪くないって思えるようになってきたんじゃない?」


名前が右耳に髪をかけながら首を傾ける。

俺は知っていた。
名前が何かを隠している時は必ず右耳に髪をかけることを。


「何か…隠してんだろぉ?」


「……どうして?」


「俺には名前のことなら何でも分かるからなぁ。」


「…まいっちゃうな。」


苦笑する名前は少し俯いてから、まっすぐに俺を見つめた。



「よく聞いて。」


「………。」


「こんなふうに私とスクアーロが話をするのは今日で最後よ。」


「っ!?…どういう意味だぁ?」

「そのままよ…もうあなたとは2度と会えない。」


「な、た、ただでさえ俺たちは1年に1度しか会えないっていうのに…何でそんなこと言うんだよ!」


そう、名前と俺が会えるのはある日を境に1年に1度のこの日だけになった。
それは俺にとって唯一の救いの日でもあった。今日があるから俺は今を生きられているのに。




「普通に考えれば、私たちはあの日からもう2度と会えないはずだった。なのに、何年もずるずると…今日まできてしまった。それを正す時が来たのよ。」


「……名前…。」


「あなたも気づいてるんでしょう?このまま…このまま死んだ恋人を縛りつけたままでいいのかって。」





















「しくじって死ぬなよぉ?」


「大丈夫よ、心配しないで。」


「絶対帰って来い。」


「何それ命令?」


「約束だぁ。」


「そう、なら守らなきゃね。」


そうやっていつも通り名前は任務へ行った。





そしていつも通り、


帰ってきた。













「スクアーロ、ただいまー。」


「う゛おっ!てめぇずぶ濡れじゃねぇかぁ。」


「はは…。」


「車はどうしたんだぁ?」


「うん、まぁ…。」


「あ?何だぁ?」


名前の不自然な態度もよく分からない胸騒ぎもきっと気のせいだと思った。


なぜなら目の前にちゃんと名前がいるのだから。







ドンドン!


突然、扉を強く叩く音がした。

「誰だぁ?」


「スクアーロ…。」


「ちょっと出てくるからお前は風呂に入っとけぇ。」


「………。」




ガチャ、と扉を開けたら
そこにいたのは、





「ベルかぁ、何の用だぁ?」


「……先輩、落ち着いて聞けよ。」


「はぁ?」


「名前が………死んだ。」

一瞬、頭がショートしかけたが何とか持ちこたえた。
ベルの言うことなんだ。真に受けてどうする。


「…………何言って、」


「冗談じゃない!…本当なんだよ!さっき連絡があって…。」


「う゛お゛ぉい、ベル!そのいたずらは一足遅かったなぁ。もう名前は帰ってきてるぜぇ?」

「な、何言ってんの?」


「そういうことだぁ。じゃあなぁ。」


「おい!!」


バタン!


引き留めるベルの言葉を後ろ目に強引に扉を閉める。


「ったくベルのやつは…。」


「スクアーロ。」


「ん?ああ気にするなぁ。ベルのやつがくだらねぇことほざきに来ただけだったからよぉ。」










「嘘じゃ……ないよ。」


消え入りそうな名前の声が聞こえたのは空耳なんかじゃなかった。



「何のことだぁ?まさかお前ベルのいたずらに付き合うつもりじゃねぇだろうなぁ?」


「…ごめん。」


言い訳も弁明もしない名前はもう一度か細い声で、ごめんと呟いた。



「……冗談よせよ。お前はここにちゃんといるじゃねぇか!」


「約束…したから。」


「……………っ。」


「絶対帰ってくるって、約束したから。」


名前が俺の目を捉えて放さない。
その時、不思議な感覚が足元から俺を支配した。


ああ、確かに名前はここにいない。

姿は名前なのに、声も名前なのに、

名前じゃなかった。





「馬鹿がぁ…いつも俺との約束なんか破るくせに、こんな時だけ無理やり守りやがって。」


「だって…今日はスクアーロの誕生日だもん。1年で1番、大切な日でしょう?」


名前じゃない名前は優しく微笑んだ。
そうか、今日は俺の誕生日。だから朝名前はどことなくそわそわしていたのか。

本当に馬鹿なやつだ。そんなこと気にしなくていいから、ちゃんと生きて帰ってくれさえすればよかったのに。

このまま名前にありがとうと言ったら、こいつは消えちまうのか?
もう会えなくなるのか?

そんなの…耐えられるわけがない。







「名前。」


「なに?」


「約束、守るっていうなら…毎年…俺の誕生日を祝ってくれよ。」

俺は最低だ。
名前を残酷な言葉で縛り付けた。
名前は一瞬、強張った顔をし悲しそうな表情を見せた。



「どうして……。」

























「……あの時から私は毎年、この日だけあなたの前に現れた。だけど、それができたのはあなたの心が孤独だったから。今は…もう違うわ。」


「やめろ!俺にはお前しかいねぇ!だからっ…もう終わりだなんて、言うんじゃねぇ…っ。」


思い切り立ち上がりすぎて椅子がガタンと倒れる。

叫ぶ俺を見て名前はあの時のような悲しい表情をした。





「もう…許してよ。」


「っ!!」


「スクアーロ……。」


許す?何を?
俺は名前に何も怒ってなんかいない。
ただ、名前がいなくなるなんて許せないだけで……。




「……俺は、お前を苦しめていたのかぁ?」


「……今のあなたなら受け入れてくれるでしょう?」


受け入れる、何を?
そんなこと分かってる。

名前がもういないという事実をだ。
もう、その笑顔も温もりも姿も2度と感じられない。


名前は…いないのだから。






いきなり目頭が熱くなる。
視界がぼやけて頬を温かいものが伝う。止まらない。


「ありがとう…スクアーロ。」


「名前……っ。」


「私の死を受け入れたから泣いてくれてるんでしょう?これで…私は安心して逝けるわ。」


消えかけていく名前を必死に抱きしめる。
もう間に合わないと分かっていても。



「ありがとなぁ…こんな俺のためにずっと……っ!」


「スクアーロ、笑って?私も最期にあなたへ笑顔をあげるから。」

はにかむように笑う名前は俺が愛した名前そのもので。
ただ、もう会えないという現実さえなければどれだけ良かっただろう。






「愛してる…名前。」


「私もよ。生まれてきてくれてありがとう、スクアーロ。」








きっと
笑ってくれるでしょう


これからこの日がきたら必ず君を想うと約束しよう。

























―――――――――――――――鮫氏おめでとうございます(>_<)そして更新遅くてごめんなさい!あーんど死ネタでごめんなさい!(本気で謝れ)
これでも明るい死ネタ?にしようと頑張ったの(´;ω;`)(そもそも何故死ネタ…)

とにかく愛してます!(逃げた)

20110313


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