スク
風になって小鳥の唄を運びたい
※拍手スク夢の続きです。
長い、長い長い夢を見ていた気がするの。
ピー、ピー、ピー、ピー、
何の音?
機械みたいな…。
「…………っ!」
「名前っ!!」
私を呼ぶ声がして、ゆっくり目を開ける。
「お、……か…あ…さん、」
「名前!よかった…っ!目が覚めたのね!」
母が枕元で泣きながら私を呼ぶ。
未だにぼーっとする頭でここが病室だということを理解する。
しばらくすると病室には医者や看護師らしき人が入ってきて、私を取り囲んだ。
私は事故にあったらしい。
車に跳ねられて、頭を強く打ちそのまま半年の間眠り続けていたそうだ。
しばらくして意識が完全に戻り、呼吸器も外れて会話ができるようになった。
「でも本当によかった…お父さんなんて会社で大泣きだったらしいし、みんなあなたが目を開けてくれるのを待っていたのよ。」
「ありがとう…心配かけてごめんね。」
もうすぐ日が沈む外を見ながら、母と会話をする。
これが私の日常で、現実なはずなのに何故かしっくりこない。
心に穴が空いたような…不思議な喪失感が込み上げてくる。
何か…大切な何かを忘れてしまっているような気がしてならなかった。
「名前?」
「…お母さん、」
「なに?」
「私ね…夢を見ていた気がするのの。」
「そう、どんな?」
母は優しい表情で私の話に耳を傾けてくれている。
「分からないの…でも、すごく大事で…忘れちゃいけないことだった……それだけは分かるのに、思い出せない。」
頭を抱える私に母が優しく肩に手をおいた。
「大丈夫よ、そんなに大事ならこれからゆっくり思い出せばいい。それに夢より今はここがあなたの現実、あなたの世界でしょ?」
「………うん。」
そうだ、今はここが私の生きる場所。
夢のことなど、無理に思い出さなくてもいいのだ。
怪我もだいぶ回復し、病院内を歩けるようになった。
今のお気に入りは屋上だ。屋上から夕陽を見ると失いかけた感覚が自然と戻ってくる気がする。
ああ、私はこの世界でたしかに生きていた。
「名前?」
突然、名前を呼ばれ振り返る。
そこには息を呑むほど美しく夕陽に照らされた銀色が立っていた。
「名前!!」
その男の人は私の名前をもう一度呼んで、力強く抱き締めてきた。
私は訳が分からず混乱する。
この人は一体……。
「ちょ、放してください!」
「!!」
長い銀髪の人は驚いたように私の顔を見た。
「名前……?」
「あの…どちら様ですか?いきなりこんなことしてきて…。」
「な、何言ってんだぁ?俺はスクアーロだぁ!忘れたなんてことないだろぉ!?」
「ごめんなさい。全く記憶にないんです。どこかでお会いしましたか?」
その、スクアーロと名乗る人は私の態度に困惑しているようで、私が間違っているみたいだ。
どこで、という私の質問に口を開きかけたけど躊躇ったまま結局、何も言わなかった。
「………悪い、人違いだったみたいだぁ。いきなりすまなかったなぁ。」
「…………。」
何だろう、この人が悲しそうに笑うと胸が苦しくなった。
私はこの人を知らないはずなのに、どうして?
「俺の……大事なやつに似てたんだぁ。」
目を伏せて、紡ぐ言葉はすぐに消えてしまいそう。
人違い?本当に?
だって確かにこの人はさっき私の名前を呼んだ。
「そいつとはありえない場所で会ってたんだぁ…もう会えないって分かってたはずなのになぁ。」
「…会えないんですか?」
私の質問にスクアーロという人は少しだけ顔を上げ、また悲しそうに笑った。
「そうだなぁ…今、会えたとしてもそれは俺の愛したそいつじゃないかもしれねぇ。」
「…………。」
私はこの人を知っている?
でも、どうして?
どこで、どうやって出会った?
思い出せない。
知らないってそのまま片付けちゃえば楽なのに、そうできないのは私の中の何かが引き止めている気がしたからなのか。
スクアーロさんと私の髪が風に揺られる。
何か言おうとするけど言葉が出なくて…でも何だか、何だか…一緒にいなきゃいけない気がして。
さっき初めて会ったばかりなのに。
スクアーロさんの目を見ると、綺麗な瞳が私を掴んで放さない。
「泣いてた?」
「そうよー、あなたが目覚める少し前ね、いきなり涙を流すもんだからお母さんあなたに何が悲しいの?って聞いちゃったもの。」
「何で、泣いてたのかな?」
「さぁねぇ…何か夢の中で悲しいことがあったんじゃない?でもそのすぐ後に目が覚めたから良かったことなのかもしれないけど…。」
何が悲しかったの?
それとも嬉しかった?
でもきっと悲しかったんだろう。感覚的にそんな気がした。
だけどどうして?
「…あなたの大切な人は今どこに?」
「さぁなぁ…とんでもなく遠くかもしれねぇし、案外すぐ近くかもしれねぇ。」
またスクアーロさんの目が私の目を離さない。
本当に綺麗な灰色、ガラス玉が目に入っているみたい。
「私、ずっと眠り続けていたんです……事故にあって、それでずっと昏睡状態で……。」
「…………。」
初めて会う人にこんなことを言うのはおかしいかもしれないけど、言わずにはいられなかった。
この人なら、この人なら私の忘れてしまった何かを教えてくれるかもしれない。
そんな縋るような気持ちで私は言葉を続けた。
「その眠り続けていた間、私は長い夢を見ていました。でもそれがどんな夢だったのか全然思い出せないんです……忘れちゃいけないはずなのに。」
「それが…罰なのかもなぁ。」
「罰…?」
スクアーロさんの言葉に私は反応する。
「罰って?どういうことですか?」
「…いや、何でもねぇ。もうどうにもならねぇことだぁ。」
どういうこと?
私はあなたとどんな関係だったっていうの?
思い出せない。
「永遠なんて……望まなきゃなぁ…。」
スクアーロさんがぽつりと呟く。
「永遠……。」
「俺が…目覚めなければ、お前とずっと一緒にいられるのかぁ?」
「自分を責めないでね、スクアーロ。それを知っていて永遠を望んだ私がいけないの。」
「…愛してるのにっ、永遠を望まないなんて無理に決まってんだろうがぁ!」
気付いたら涙が流れた。
「スクアーロ…。」
微笑む彼が好きだった。
そこは綺麗な水の中にいるような美しくて心地よい場所だった。
気付けば私はそこに1人でいた。小さな家はまるで私のためにあるようで、傍にある湖は静かだった。
ここは死後の世界なのだろうか?
そう思えてならなかった。
だとしたら何て美麗で静かで孤独なところだろう。
私以外は誰もいない。
声を出しても誰も答えない。
帰りたい。
そう思っていた私の前にあなたは現われたの。
「何、読んでるんだぁ?」
少し乱暴そうだけど優しい声。
その声に私は振り返る。
「誰……?」
男は小さく笑って私の隣に腰を下ろした。
私と同じ目線で湖を見るみたいに。
「スクアーロ。」
「え……。」
「俺の名前だぁ。お前は?」
「名前…。」
「名前か、いい名前じゃねぇか。」
そうして彼は微笑んだ。
好きになるのに理由なんてなかった。
孤独だった私に彼は光をくれた。
毎日毎日、彼が来るのを待っていた。
彼がどこの人でどこから来てるかなんて、そんなことはどうでも良かった。
彼との時間は幸せだった。
ずっと、こうしていられたらいいのに。
そう願わずにはいられなかった。
でも、そう望んだら私はもうきっと引き返せない。どこからかそんな声が聞こえていた。
危険信号だったんだろう。
本当に私が死ぬのか生きるのか、その瀬戸際。
きっと望んだら戻れない。
家族や友達、あの世界で関わった人たちをどれだけ悲しませるだろう。
でも、スクアーロに会えなくなるほど辛いことはないと思うほど私は彼を愛してしまった。
彼が、彼さえ永遠を望まなければこのままでいられる。
だけど、どこかで望んでほしいと願う自分がいる。
こんな狡い私を許してほしい。
あなたは何も悪くない。
だから、もう二度と会えなくても自分を責めないで。
この世界が壊れても私はあなたを愛しているから。
「スクアーロ。」
「……名前、かぁ?」
「約束、守らなくてごめんね。」
もう会えないと思っていたのに、あなたは来てくれた。
なのに私は、
「名前っ!」
スクアーロの腕の中。
温かい。スクアーロからの愛情が流れてくるみたい。
「もう縛られた場所なんかじゃねぇ自由なこの世界ならずっと一緒にいられる…そうだろぉ?」
「うん!」
「名前……。」
「スクアーロ…。」
耳元から聞こえる甘い言葉はきっと永遠。
もしかしたらこの世界でも私たちは違うセカイで生きているかもしれない。
だけど、それが何だって言うの?
あの時と違うのは私たちには未来があるということ。
止まった時を生きるほど意味のないことはないでしょう?
きっと私たちはどんな困難があったって結ばれるわ。
私があなたを愛するようにあなたが私を愛してくれるなら。
風になって小鳥の唄を運びたい
世界は繋がった。
もう夢じゃないよ、そうだと願って。
―――――――――――――――拍手の続きということで書きました\(^O^)/
悲恋にしようか最後まで迷ったのですが、やっぱり結ばれた方がいいかなと思いこの形にしました。でも、スクアーロとヒロインはこの世界でも一般人と暗殺者ということで、本当に結ばれるかは2人次第かなという感じです(曖昧)結ばれてほしいですね(^^)v
駄文ですがここまで読んでくださりありがとうございました!
20110210
お題:水葬
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