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スク
浅く深くそして抉る







いつも私達は背中合わせ。
お互いの表情だとか気持ちなんて知らない。

見ないフリ。

知らないフリ。



恋人でも、何でもない私達。



私達の距離ってどれくらい?

ねぇ、いつまで私達はこんな茶番を続けるの?


















「今日は任務いつから?」


「夜からだ。だからまだ時間がある。」


「どうせ寝るんでしょ?」


「そんなこと言ってねぇだろ。」

そうやって私を引き寄せて髪にキスをしてくるこの男と私は恋人じゃない。
愛人、というのとも違う。愛なんてものはないから。


ベッドに座る私を押し倒そうとする男の肩を押し返し、私はベッドから身体にシーツを巻いて這い出た。



「んだよ、ノリ悪いなぁ。」


「今日は人と会う約束があるの。そんなにしたいんなら他の女の子呼べば?」


「あ゛ー?そんなめんどくせぇことするほど溜まってねぇよ。」


「よく言うわ、こっちは腰が痛くて適わないんだけど。」


「いいじゃねぇか、よがってたくせによぉ。」


「はぁ。」


シーツを纏ったまま床に散らばる衣服を集める。
私とこの男の関係に名前を付けることはできない。

恋人?違う。

愛人?違う。

友人?違う。

同僚?違わないけど、それだけってわけでもない。


まぁ、そんなことを考えるだけ無駄だっていうのはだいぶ前から気付いている。

固定された関係はお互いを縛るだけ。
それが嫌だから私達はこの関係を続けてるわけだけど…。





「そういやぁお前、ボスに呼ばれてただろぉ?任務の話じゃあ…ねぇよなぁ?」


「あー…結婚するのよ、私。」


スクアーロが一瞬、固まったのは見なくても空気で分かった。




「けっこんて…おま、マジでかぁ?」


「大マジ。」


「……誰と?」


「……あのさー、関係なくない?スクアーロに。私が誰と結婚するかなんてさ。」


「!」


正直、話したって何ら支障はないんだけど、これは私なりのエゴと仕返しだ。
ここまで固まらないどろどろとした液体みたいな関係を続けさせられていたという私の身勝手なエゴと結局はスクアーロに縛られていた私への仕返し。


この言葉にスクアーロは少なからず何か思うことはあるだろう。

いくら私との関係が適当でも、どちらかといえば感情の起伏は激しい方だし。





「だからスクアーロの部屋に来るのも今日が最後だから。別に私のものなんて置いてないよね?」


「…………。」


「ちょっと聞いてんの?もしかして寂しいとか笑える冗談言わないよね?」


スクアーロに振り向かないまま私は言葉を続けた。
着替えはもう上着を着るだけだ。






「名前。」


「んー?…っあ!」


名前を呼ばれ腕を引かれた。
そうしたらそのまま首筋に走る小さな痛み。


途端に私はスクアーロの腕を振り払う。



「な、何すんのよ!こんな見えるところに…今日、婚約相手に会うっていうのに!」


「そうかぁ、そりゃあ相手の男はさぞ不愉快だろうなぁ?」


厭らしく笑うスクアーロに私は寒気を覚えた。

(こいつ…わざとだ…!)



私は勘違いしていたようだ。
私とこの男の縛られていない関係なんてものは嘘っぱちだ。
縛られていないのはスクアーロだけで、私はいつだってこの男に縛られていた。


赤く染まる首筋を押さえたまま私は後退さる。

初めてこの男に恐怖を覚えた。
私は何も分かっていなかったんだ。
この男の中に眠る狂気も自分の立場も。





「なぁ名前。」


スクアーロは尚も笑みを浮かべたまま私との距離を縮めてくる。


「スクアーロ…どうして、」


「どうして?そんなこと今さら聞くなんて野暮じゃねぇかぁ?」


肩を掴まれ、身体を引き寄せられる。
形は抱き締められているように見えても、私にとってはもう逃げられない鎖をつけられた気分だ。





「名前。」


耳元で囁かれる妖艶な声は呪いの言葉。

























浅く深くそして抉る


「結婚なんて嘘だよなぁ?」

(俺を裏切るなんて嘘だよなぁ?)





















20110130


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あきゅろす。
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