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スク
戦争をしませんか








張り詰めた空気。


呼吸さえも煩く聞こえる静寂と緊迫感。


正に死と隣り合わせ。
生き残るのは敵か自分か。



この感覚は嫌いじゃない。
なぜなら、こんな感覚は相当な使い手が相手でなければ体験することができないからだ。

だがそれは剣士に限ってのこと。ただの暗殺の仕事ならこんなのは面倒極まりない。

ただのリスクにしかならないからだ。






俺が息を吐くのと同時に一定の距離を保った敵が口を開いた。






「スクアーロって意外と用心深いのね。」


そう、今俺が向かい合っているのは女である。

しかも、まったくの他人ではなく昨日まで同僚だった、女。




「俺は完璧主義者だからなぁ。そもそもヴァリアーなら確実性のない仕事はしねぇ。」


女は俺に向けている銃を少し揺らしながら笑った。


「そんな模範解答、あなたには似合わないわ。」


「何とでも言え。裏切り者のほざきなんざ興味はねぇからなぁ。」

「冷たいのね。」


「てめぇにはかける慈悲もねぇんだ。優しさなんてもんは持っての他だな。」


「慈悲?あはっ、ははは!そんなもの持ち合わせてもいないくせによく言えたものね!いつのまに口達者になったのかしら?」



女の笑い声も静寂に吸収されてしまう。
月明かりだけが2人を照らし、お互いを妙に美しく際立たせている。





「愚かだなぁ、本当にヴァリアーから逃げられるとでも思ったかぁ?」


「逆に聞くけど、逃げられないって本当に思う?」


「俺が逃がさねぇ。」


「あら殺し文句。」


また女は笑う。
こいつは絶対に自分の心を相手に見せないやつだった。

常に飄々と人をおちょくるようで決して深くは干渉してこない。





「言い残したいことはあるかぁ?」


「んー…そっちは私に聞きたいことは?」


イラつく。
こいつが見せる余裕はまるで俺には殺せないとでも言っているようで。






「……じゃあ聞くが、裏切りの目的は?」


「うーん、1つ訂正すると…端から私はあなたたちの仲間だったつもりはないよ。だから裏切りだなんて心外もいいとこだよー、はは。最初から敵だっつーの。」


「………腐ってんな。」


「人にそんなこと言えるようなお偉い人間じゃないくせに。やめなよ、愚直なんだってスクアーロ。」


「じゃあ何故ヴァリアーに入ったぁ?」


「…好きだからさ、争いが。」


「……………。」


「だけど、だんだん小規模じゃ満足できなくなってね。」


「う゛お゛ぉい、ヴァリアーで小規模に感じるなら、もうこれ以上なんてそうあるもんじゃねぇだろぉ。」


「そうなんだよね。でもそのヴァリアーも昔ほど血走ったことはしないもの。ザンザスが変わったからかしら?」


そういえば、こいつはザンザスをボスと呼ばない。
考えてみれば分かりそうな忠誠心の無さに気付けなかった自分が少し愚かしく思える。



「あいつは自分と闘ってる。」


「そんなのザンザスじゃないわ。彼は全てを己以外のせいにするから争いの火種をたくさんまいてくれていたのに…残念だわ。」


「…理解できねぇな。」


「ありがとう。あなたに私を理解されるなんて堪ったものじゃないもの。」


またにっこりと笑う。

ああ、俺は別にこいつの笑う顔が嫌いじゃなかったのに。




「……お前を見てると本当に戦争さえも起こしかねねぇな。」


「素敵ね。戦争は争いの最上級よ。私もそろそろ、そこへ行き着いた方がいいじゃないかって思ったの。」


「てめぇも死ぬんだぜぇ?」


「幸せなことよ。私みたいのは一刻も早く死んだ方がいいもの。」

「………………。」


「でもね、地獄に逝く前にこの世の地獄ってのも見てみたいのよ。だから、」


「意外たな。戦争を地獄だって思えるのか。」


「……少し喋りすぎたようね。」

「……ああ。」


女の顔つきが変わる。

殺しをする人間の顔に。


「手始めはスクアーロ、あなたよ。あなたが地獄の始まりになるの。」



「てめぇに殺されるほど俺は弱くないぜぇ!」


「どうかしら。」


「行くぜぇ、名前。」


「始めましょうか。」








やっと呼んでくれたのね、
私の名前。















戦争をしませんか
自らの手で愛する人を殺すって、地獄だと思わない?























20101128 お題:水葬


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