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スク
リメンバー







いつも私の方が優れていたのに。


勉強も運動も剣術も、全部ぜんぶ私の方が出来ていたのに。





「いつになったら私に追いつけんのー?」


「うるせぇ!今にみてろ、てめぇが手の届かないところまで行ってやらぁ!」


「あっははは!無理だって。スクアーロが私に勝つなんて、ぜーったい無理!」


歩くときも少しだけ彼の前を歩いて、振り返りながらからかって…私が彼に勝っていれば、彼はずっと私を追いかけてくれる。
私だけを見てくれる。



そう、ずっと。













いつだったっけ?
スクアーロに勉強で負けたのは。

いつだったっけ?
走るスクアーロに追いつけなくなったのは。


いつだったっけ?
スクアーロの奮う剣に足元にも及ばなくなったのは。








いつだったかは忘れてしまったけれど、その時、私とスクアーロの立場は完全に逆転した。



それでもスクアーロは止まらなかった。

振り返ることもなく、 どんどんどんどん進んでいった。




最初はまた追い抜けると必死だった私も歩みを止めてしまった。


そうしたらスクアーロが立ち止まってくれるんじゃないかってくだらない期待をしたの。




でも、そんなのは簡単にぶち壊し。








とうとうスクアーロは私が見えないところまで行ってしまったね。









「……ヴァリアー?」


「あ、ああ!スクアーロのやつ、ヴァリアーのボス、剣帝テュールを倒して正式に入隊が決まったらしい…。」


「……だから腕なくなったんだ、あいつ。」


「名前?どうしたんだ?スクアーロと最近、話してねぇみたいだけど…。」


「……………一緒にいることが辛いときもあるの。」


「名前………。」


「教えてくれてありがとう、ディーノ。」









もう声も届かないところまで行ってしまったのね。







さよなら。
本当はずっと一緒にいたかった。
でもね、私とスクアーロにできてしまった距離はもう縮められないの。






















「……………。」


「どうしたんだ?名前。浮かない顔して。」


「ううん、何でもない。少しぼーっとしてただけ。」


「…そうか。もうすぐボンゴレに着くからちゃんとしろよ。」


「はい、ボス。」


私は学校を卒業してすぐにキャバッローネファミリーに入った。
ディーノの誘いがあったというのも1つの理由だけれど、1番の理由はスクアーロから逃げたかっただけ。

突き放されていく距離に耐えられなくなって、私は逃げだした。


自分でも惨めだって分かってる。だけど、どうしようもなかった。



幸い、キャバッローネに入ってからスクアーロと会うことも連絡をとることもなかった。

このまま、ただの思い出になってしまえばいいと思っていた。
そうしたら、私の心はきっと自由になれる。


だが、私がキャバッローネに入って5年目、初めてボス補佐としてボンゴレへ出向くことになった。
何度も断ろうと思った。
だけど初めてのボス補佐という仕事は私がマフィアとしての大きな一歩だ。
ロマーリオさんだって頑張れと肩を叩いてくれた。

やりたかった。
逃げたくなかった。

私自身のプライドで今、この座席に座っている。






「…悪かったな。」


「何がです?」


「初めての補佐の仕事がこれでさ…名前はスクアーロに会いたくないんだろ?」


「…………会ったって今更、何も変わらない。私は今キャバッローネファミリーとして生きているんだから自分の仕事をきちんとやるだけです。」


「名前………。」


「はい?」


「……敬語やめてくれよ…かゆい。」


「ふふ、わざと。」


「嫌な奴だなー!」


ディーノは優しくて太陽みたいな人。
私をいつも気に掛けてくれる。
その優しさに今まで甘えてきた部分も多い。

でも、このままではダメだ。
私はボス補佐なのだから。








「すごーい!ボンゴレ本部ってこんなに大きいんだ。」


「だろー?ビビるだろ!」


「何でボスが自慢気なのよ!」


「えっ?あー、何でかな?はは!」


「まったく…。」


能天気なディーノに呆れながらも内心は穏やかだ。
ディーノは人をそんな気持ちにさせてくれる。



「よし、じゃあ9代目に会ってくるか!」


ディーノが歩みを進めようとするのに私も従おうとしたら、ロマーリオさんに手で制止された。



「?…ロマーリオさん…。」


「お前はボスが9代目に謁見する部屋手前の通りの見張りだ。」


「え…でも私はボス補佐……。」

「いいか、ボス補佐は全部で5人。玄関ホールから謁見室までの通り全てに見張りをつけるのが決まりなんだ。」


「ボンゴレではなく…?」


「大きい声で言うもんじゃねぇが…いくら同盟を結んでいても、だ。」


ロマーリオさんの言葉にどきっとした。
そうだ。ここはマフィアの世界だ。


油断という言葉はイコール死に繋がるんだ。

ロマーリオさんの言葉に私は静かに頷くと配置の場所に向かった。


「悪いな、名前。」



困ったように笑うディーノに手を振って背を向けた。









かっこつけて配置についたものの見張り役とは退屈だ。

開けた廊下からは直接 中庭に通じているため噴水の流れる水に自然と気が緩んでしまう。


















「名前………?」






聞き覚えのある声に一瞬、息が止まった気がした。





顔をゆっくり上げてみると、ちょうど日陰に隠れた長い銀色がいた。



「…………っス、」


「やっぱ名前かぁ?」


数歩 近づいてきた姿を見て、また息がつまる。






スクアーロだ。






髪がすごく伸びて、背も伸びて、透き通るような瞳。


私がずっと逃げ続けた相手。
ずっと傍にいたかった相手。




何を言えばいいのか分からなかった。

どんな顔をすればいいのか分からなかった。



もう、届かない人だと思ってたから。

会うことなんて、









「久しぶりだなぁ。」


「……………あ、」





どうして?

どうして普通に話しかけるの?


今までどれだけの時間が流れたと思ってるの?




私はずっと苦しんでいたのに、ずっとずっと…………なのに!



スクアーロにとっては、何ともないことだったの?

簡単に思い出にできる存在だった?




ねぇ。









「名前…?」


「…………みたい。」


「………?」


「馬鹿みたい、私。」


「……………っ!」





私は笑った。




「…名前。」


「…久しぶり、スクアーロ。」


「…………ああ。」


「何年ぶりかなぁ?卒業以来だから…8年くらい?」


上手く笑ってる。
私だって気にしてないよって、笑ってるのよ。

スクアーロと…一緒。





「名前、俺は…。」


「どうしたの?久しぶりの再会だっていうのにさぁ、辛気臭くない?」


「………ずっと、会いたいって思ってたんだぁ。」


「…っ!?」


動揺してる自分が隠せない。
どういう意味なのって追及したい。

だけど、




「…わ、私もスクアーロに会いたいって思ってた…。」


「違ぇ、そういう意味で言ってるんじゃねぇんだ。あの時からおかしくなっちまった俺達の関係を取り戻したいって言いたかった。」

「…………取り戻す?」


スクアーロの口から出た言葉は嬉しさを誘うようで私にとっては辛辣だった。





「無理よ…私とスクアーロはね、もう昔みたいにはなれない。だから私はあなたから離れたんじゃない。」


「………………。」


「私にはできないこともスクアーロにはできて、どんどんどんどん前に行っちゃって…私だって最初は追いつこうと必死だった!でもスクアーロは私なんか気にしないで振り向きもしてくれなかったじゃない!」


「名前…。」


「……悔しかった。それ以上に寂しかったの…!スクアーロと同じじゃなきゃ、スクアーロの傍にいる資格がないって…思ってたから…だから、」


「……言っただろぉ?」


「…………え?」


時の流れを感じさせるスクアーロの髪が風でゆっくりと揺れる。

それと同時に蘇るあの時の記憶。




「今に見てろ!てめえの手の届かないところまで行ってやらぁ!」









「言ったろ?お前の手の届かないところまでいってやるってよぉ。」


「…そうだったね。」


「でも私だって馬鹿じゃない。本当は分かってたんだよ、心のどこかで…スクアーロはすぐに私の届かないところに行っちゃうって。」


スクアーロは口を閉ざしてしまったのか、静かに私の話を聞いていた。

震える唇で必死に紡ぐ言葉はさらさらと風に溶け込んでしまいそう。



ちゃんとスクアーロに伝わるだろうか。






「分かってた…分かってたけど認めたくなかった。スクアーロをつなぎとめたくて必死だったの。馬鹿みたいでしょ?あの頃の私、スクアーロに見捨てられたら生きていけないって思ってたのよ……本当、馬鹿みたい。」


「……俺も同じだぁ。」


「同じ…?そんなわ「いいから聞けぇ。」



スクアーロはこんな真剣な目をする人だったろうか。

動揺がそのまま不安につながるようで背中を流れた冷や汗を否めなかった。



「俺は慢心してたんだぁ。お前にどうしようもないくらいの差をつけちまえば、俺なしで生きられなくなると思った。俺にすがりついてきて、俺しか見えないようになればいいって…ずっと思ってたんだぁ。馬鹿だよなぁ。」



「……そ、れって…どういう……、」


きっと頭の中では答えが出てる。だけど、それを上手く受け入れられない。




「名前。」






顔を上げればスクアーロが私に手を差し出していた。



日にあたってきらきら光る髪が視界に入って泣きたくなった。




その手を掴んでいいの?



あの頃みたいに笑ってくれるの?





無気力にぶら下げていた腕に力を入れた。


ゆっくりとゆっくりとその腕を上げていく。



躊躇いがちに焦がれた指先に手を伸ばした。






もう少しで触れる、2人の……






「じれってぇ。」


「あ…。」


私が伸ばした腕は簡単に掴まれて優しく引かれる。

そのまま飛び込んだのは夢見たスクアーロの腕の中。





すれ違ってしまったあの頃から我慢していたものが全て綺麗に崩れていく音がした。








「ずっと…ずっと好きだった。傍にいたかったよ。」


「あ゛あ、俺もずっとお前が好きだった。」





ただ一緒にいれればよかった。

一緒に笑ってほしかっただけ。




なのに私たちは随分 遠回りしたみたい。



ねぇ、そうして抱きしめてくれるなら、もう放さないで。






ずっと、ずっとよ。
















リメンバー


「やっと、くっついたか。」


「ボスはどこまでもお人好しなやつだなぁ。」


「うるせぇな、余計なお世話だよ。」



















―――――――――――――――無駄に長い;
久しぶりに書いたリハビリ作品。
20101002


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