容疑者プラクティス
ねぇ、まずいよ…これ
大丈夫だよ。
だって、見つかったら…
大丈夫だって!私を信じて
でも、もしも…
大丈夫、もしそうなったとしても
私は絶対にあなたを裏切らないから
そう言った彼女の顔を私は今でも忘れない。
―
起きると9時を回っていて完璧な遅刻を物語っていた。
どうせ仕方なく入学した高校だし、就職する必要も無い私にとって高校は窮屈でとてもめんどうなだけだった。
携帯が鳴ったので仕事かと思ったが、液晶を確認して私は無表情になった。
「……なに?」
『お、出た。俺の愛しの名前ちゃん!』
「紀田」
『お前何で来ないんだよー、心配して電話しちゃったじゃないか』
「本当は」
何か聞きたい事でもあるんじゃないの?そう聞くと電話の奥で息をのんだ音がした。
『…沙樹とはなにもねぇよ』
「そういう意味じゃ無いことぐらい分かってるんじゃない?」
『取り敢えず学校来いよ』
「なんで?」
『俺が寂しいからっ!』
「言ってろ」
そう言って一方的に電話を切った。
しかしすぐに電話が掛って来ていらっときたので(しつこいの大嫌い)電話口でしつこいと怒鳴ってやると笑い声が私の鼓膜を揺らす。
――この声は
「―折原臨也」
『いきなり怒鳴るなんてびっくりしたよ』
「何の用ですか」
そう怒らないでよ、とまた笑う。警戒しながら用件を聞くと仕事の依頼らしいのだが…
「…は?」
『だから、今日1日俺に付き合ってよ』
「…つまり」
またふっと笑って
『君の1日を俺に頂戴』
確かに私にはそう聞こえた。
恋人同士ならまだときめくのかもしれないが、何を考えているのかもよくわからないような奴にそんな安易な事は出来ればしたくない。
しかし、私の情報を握られてる限りきっと逆らう事は出来ないのだろう。
『安心してよ、ちゃんと報酬は払うから』
「…数は?」
『5枚でどうかな?最も報酬云々より君は俺に逆らえる体じゃないよねぇ』
「…イラッ(そんなことわかってる!!)」
ここまで言われてしまうと断る訳にもいかない。悔しいがこれは仕事だと割り切る事にした。
「わかりました、引き受けましょう」
『いやー申し訳ないねぇ、無理矢理みたいになっちゃってー』
「…イラッ」
『じゃあ、11時に駅西口に来てよ』
「…了解」
この電話を早く切りたくて手短に返事をしてやっぱり一方的に切った。
只今の時刻
9:34分
早くしなければ間に合わなくなってしまう。
汗でべたつく憂鬱な体を引きずりながらバスルームへ入った。
容疑者プラクティス
(…本当に何を考えているのだろうか)
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