プランクトンに食べられる
俺は彼女の言葉に少し驚いた。
少なからずもう少し時間がかかる取引だと思っていたからだ。
朝、あんな様子を見せた後すぐに「一緒に住みます」なんて言われることは無いと思っていたから、どうやって上手く丸めこもうかずっと考えていたのに
「随分といきなりな変更じゃない?あんなに嫌がってたのに」
「状況が変わりました。」
「……どういうこと?」
「あなたに話す必要ありません」
「冷たいなぁ…」
詮索しすぎてまた逃げてしまうかもしれない事を恐れてあまり深入りはしなかった
いや、出来なかったの間違いか
「とりあえず、客間が1部屋空いてるからそこを君の部屋にしようか」
「……ありがとう…ご、ざいます…?」
「あぁ、必要な物買わなくちゃね。全部燃えちゃったんだろうから」
「……」
「…何が必要?」
「………やっぱり燃やすように仕向けたのはあんたか」
「やだなぁ、一体何のこと?」
笑って返すと怒りを通り越して呆れた顔をした名前はもういいです、と力無く呟いた
―
買い物を済ませ新宿に帰る途中も彼女は深くフードを被り、辺りをひどく警戒している様子だった。
理由はわからないが電車やバスには乗りたくないと言い張るものだからタクシーを使うか提案するとやっと無言で頷いた。
「…」
「…ねぇ」
タクシーに乗り込んでも全く喋らない彼女に話しかけてみる
「ねえ」
「…」
「また無視するの?酷いなぁこれから一緒に住むっていうのにさ」
「仕方なくです。勘違いしないで下さい」
「仕方なく…ね。てことは何かそうしなきゃならない事があったって事だよね」
「…知りません」
「本当に?」
「しつこいですよ」
「ははっ、そう簡単に引っかかん無いかぁ」
フードの中から覗く瞳と目が合う、相当怒っているらしい彼女は強く俺を睨み付けている。
軽く謝ると素直に引き下がる(まだ怒っていたが)そのあたりは素直な性格だろう。そのあとは二人とも新宿の自宅まで黙ったままだった。
―
部屋に入るととても嫌そうな顔をした。
「どうしたの?」
「いや、なんでこんな所に世話にならなきゃいけないのかと思って」
「それ結構酷い上にかなり失礼だよね」
「私の部屋はどこですか」
「俺の話きいてる?」
大人しく案内すると部屋を見回す。
そして入念に箪笥の裏やコンセント、時計や様々な所を物色し始めた。
なんにも仕掛けてなんかないよ
と言う俺を華麗に無視して盗聴器もカメラも無いことを一通り確認し終えた名前は改めて部屋を物色し始めた。
「あ」
「なに、何か買い忘れ?」
「衣類……」
「あー…忘れてたね」
「…」
「こんな時間じゃ店もやたてないだろうし」
「…」
「どうする?」
「…」
「……」
「…このままでいいです。下着はコンビニで買ってきます」
凄く嫌そうな顔で立ち上がった彼女の格好はネコミミ付きのフードパーカーに下はチェックのミニスカート
さすがにこれで寝かせる訳にもいかないんじゃないかと思ってはみても
「何日も着替えないのは慣れてます」
「お風呂入ったりしないの?女の子からそんなこと聞くのは心外だけど」
「訓練されてましたから」
「……あぁ、なるほどねぇ」
「誰かのおかげで足のギプスもまだ取れないですし」
「あれは俺のせいじゃないでしょ、名字ちゃんが前に飛び出して来たんじゃないか」
「折原さんはわざと避けなかったんだと思ってますが」
「…さぁ、どうかな」
軽く笑ってあしらうと埒があかないと判断したのか、また嫌そうな顔で足を引きずりながら部屋の片付けを再開した。
少し覗いてみるともっとシンプル重視かと思ったけど、案外そうでもなかった。
もともとの家具が茶色で統一されていたのを知っていたかのように小物や買ってきた家具がもともとの家具に合っていた。
以外と女の子な性格なのかもしれない。
ふっとそう思った。
片付けが一段落したところでお風呂に入って来るように言うと
嫌そうな顔でコンビニで買った下着を抱え脱衣所に入って行った。
完全にシャワーを浴びている事を確認してから携帯を取り出した。
「全く、世話が焼けるよ」
毒づきながらもこのあふれる好奇心が顔に滲み出る。
トゥルル
トゥルル
トゥルル
トゥルル
ト
ゥル
ル…
「 ?」
「……あぁ、こんばんは」
そういって臨也は怪しく微笑んだ。
プランクトンに食べられる
(いつだって)
(彼は自分に忠実)
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