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震える魚をつかんだ両手






「もう一度言うよ」

「……」

「良く今の状況を考えてから答えを出した方がいいんじゃないかなぁ」







私が座るソファの前にしゃがみ込んで私に問い掛ける彼が





「…ぁ」





"彼"に重なって見えた






なんの反応もない私を不思議に思ったのか俯く顔を覗きこんできた


遂に耐えられなくなった私は





「触るなっ!!!」

「いっ!?!!」






思い切り付き折原臨也を飛ばした



ゴンッと大きな音がしたがそんなのお構いなしに松葉杖を引っつかんで急いで部屋を出て行く。




ばたんと勢いよくドアが閉まる








「……いて」





テーブルの角にぶつけた頭を摩りながらゆっくり起き上がり





「……はは」





嬉しそうに笑った。

























「はぁっ、はあっ…」





驚いた。

あんなことでここまで動揺するとは自分でも予想外だったのだ。



朝、あんな夢を見たから



"彼"と重なって見えたのだろうか



情けない。

自分はまだそんな物に縋って生きているのか、もうきっぱりと切り捨てた感情だと思っていたのに。





もう忘れようと、思っていたのに……





そこまで思ってふっと立ち止まる。





「……あ、れ?」





パタリ、パタリと地面に染みが出来る。





「…、わた し」





泣いてる?





何故だろう。

私はもう泣き方を忘れたし、涙も枯れてしまった筈なのに。




こんな少しのことくらいで泣くなんてどうかしてる




そう思うのに涙は塞きをきったように止まらない。





「……」





心に塞ぎ込んでいた彼の声が今度ははっきりと聞こえてくる。







アイリス





止めてよ






アイリス






止めて






アイリス






やめて……









その時だった









「名前?」


「……ぇ」






顔を上げると明るい黄色が目に入った。





「お前っ、足どうしたんだよ!!」

「…きだ」

「大丈夫か?!臨也さんになにかされたのか!?」






その言葉に私は一気に頭に血が上った。



そう心配して私を手伝おうと伸ばした手を



ナイフを持った手で薙ぎ払った




「っ?!」




白いトレーナーに朱い染みが滲む。






「私言ったよね?もう関わらないでって」

「…名前」

「言ったじゃない、なんで必要以上に関わろうとするのよ」

「それはっ!!!」

私に関わらないでよっ!!






なんで、どうして

みんな私に関わるの?

ほっておいてよ






「名前」
「私、…もう行くから」

「おいっ!!!」

「さよなら、将軍さん」







そう吐き捨ててその場を足早に去った。





紀田は後を追って来なかった。


















日が暮れはじめた。
ビルの間から覗く空がもうオレンジ色に染まっている。


どうしようか、家が無いのは流石にキツイし明日は学校がある。




絶対にあんな奴のところなんか行きたくない。








「どうかしてる……」







本当にそう思った。


立つのも嫌すぎて体か重いし寒気がする。


絶対にあんなやつのところ行かない。


何もしないとか言ってしっかりと事をしでかしてる奴を信用出来る訳もない





「………………はぁ」





取りあえず場所を移動するしかないな。






重い体に鞭を打ち立ち上がり人気の無い所へ歩き出した















震える魚をつかんだ両手




(本当は)
(自分の心から)
(逃げてるだけ)


あきゅろす。
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